44:僕について
トム氏かすっかり完食した大皿を下げてくれて、食後のコーヒーとデザートのティラミスまで用意してくれた。感激である。ティラミスも手作り感があって素朴な味がして美味しい。
ニコがホクホクしていると、それを見たトム氏は苦笑していた。
「そんなに喜んで頂けて光栄なのですが、私はお礼としてご招待するならもっときちんとおもてなしすべきでは、と申したのですよ。本職のシェフをお呼びした方が良いと」
「いえ、今日みたいなおもてなしで良かったです。トムさんのご飯が食べられて良かった」
「安上がりなお方ですねぇ」
「庶民ですから」
トム氏はニコニコして、コーヒーのおかわりを注いでくれた。幸せである。
「しかし、ニコは相当変わった庶民なんじゃないか?」
ジェラルドが言う。相当変わった貴族様に言われてしまった。
「舌は庶民かもしれないが、普通の庶民は不労所得で生活していないだろう」
「そうですね……。僕、というか、僕の養父母が不労所得で悠々自適生活を送っているので。僕はそのおこぼれというか、ついで、ですね」
「養父母、というのは?」
別に隠すこともないので、ニコは身の上を語った。
「今は世界一周?旅行に出ています。もう半年くらいになるのか……時々手紙が届きますが、いつ帰ってくるかはわかりません。僕は赤ん坊の頃、港の近くで拾われたそうなんですが、実の親のこととか、詳しいことは知らないんです。特別知りたい気持ちもありません。現状がとても幸せなので」
「なるほど」




