43:カフェ店員の少年、リピート客をゲットする
貧乏舌な貴族様……。
ちょっと拗ねた様子のジェラルドに、ニコは思わず吹き出してしまった。
「ニコまで……。いいじゃないか、合理的で。食事の時間も洗い物も少なくて済む」
「いや、あの、洗い物とか気にしちゃうところが、貴族らしからぬというか、庶民的というか」
「毎日たった一人のためにコース料理を用意するなんて馬鹿らしいだろ?俺は別に、不味くなければなんだって食べるし」
知れば知るほど、おかしな貴族様である。
「まあトムの作る料理はなんだって美味いがな」
「私の料理は全部大味なんですけどねぇ、ほら、坊っちゃま貧乏舌なので」
「まだ言うか!」
確かに、名店のシェフのような繊細な味付けではないかもしれないが、家庭的というか、手作りの味というか、そんな温かい味がする。
「とても美味しいです」
「お口に合って何よりです」
「ニコも貧乏舌仲間だな」
「僕は普通に庶民なので」
思っていた以上に和やかな食事になってしまった。
ニコは意外だった。ジェラルドはこんなに親しみやすい人物だったろうか。知識としてあるジェラルドの情報は、かつてゲーム版ショークラのプレイで得たものだ。ゲーム版の別荘イベントはもっと厳かな雰囲気だった気がするのだが……。もちろん、相手がゲームの主人公だったから、なのだろうが……。
「いろいろあって、ほとんど一人で食事をするようになってからは、時間や手間をかけるのが馬鹿らしくなってきてしまっただけで、別に舌が貧しいわけじゃないからな」
「そう言えば昨日も、パンケーキを食べてくれましたもんね。内心びっくりしてたんですよ」
普段から庶民の味に慣れ親しんでいたならば納得である。
「ああ、あれは美味かったな。また食べに行ってもいいだろうか……」
なんだか語尾が自信なさげに小さくなっている。何故だ。迷惑かけたからと遠慮しているのだろうか。
「ごくごくフツーの平凡なパンケーキですけど、それでよければ」
「ありがとう」
一日で「また来る」というお客さんを二人もゲットしてしまった。四葉珈琲店、真面目に営業しなければならないかもしれない。




