41:無限のテラス
ニコは自宅からの眺望もなかなかだと思っていたが、比べようもなかった。ジェラルドの屋敷は崖のギリギリに建てられていて、テラスからは真っ青な空と海しか見えない。浮世離れした絶景だった。
「うわぁ……きれいですね!」
「昔は『無限のテラス』と呼ばれて親しまれていたらしい。この景色だけでも、この館に住む価値がある」
「確かに!独り占めなんて贅沢ですね。この国で一番の眺めですよ!観光地になっててもおかしくないのに……」
ニコが興奮気味にまくし立てると、ジェラルドがこちらを覗き込んでいるのに気づいて、我に返る。
「失礼しました!」
距離をとる。その視線がやけに優しいものだったので、ニコは戸惑った。
「構わない。あまり気を遣わないでくれ。言葉遣いとか、態度とか、気にしなくていいから」
「流石にそれはちょっと……」
そんな感じのことを言われるのは今日二度目である。
ゼルといい、ジェラルドといい、変わり者の貴族様は無茶ぶりがすぎる。
一体、ニコはどういう気持ちでここに居れば良いのだろうか?
一応、ジェラルドを介抱した礼として、自宅に招かれた、という状況。
恩人、という扱いなのかもしれないが、急に距離感が縮んだかというとそうではない、はず。
メインの攻略対象キャラがモブキャラに優しい。これは、何かのバグか?それとも罠?何かことあと突き落とされるのか?
悩んでいても仕方ない。選択肢を選んだのは自分なのだ。自分の目で見届けなくては。
「俺としては、久しぶりに……いや、初めてか?自宅に友人を招待したような気分でいるんだ。よければ付き合ってくれ、ニコ」
「友人……」
友達いなさそうだもんな、ジェラルド……。
そう言われると、何だか同情心というか、付き合ってやらねば、という気がしてきてしまう。またしても相手のペース。いや、庶民が貴族に逆らう訳にはいかないのだが。
「坊っちゃま、お食事の用意が出来ました。食堂で召し上がられますか?」
有能すぎる執事兼御者兼コックのトム氏の声に振り返る。いや準備早くね?有能すぎない?
「いや、ここで食べよう。せっかく天気もいいし」
ジェラルドの提案に、トム氏は頷いた。




