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38:馬車に揺られて
ガタゴト……ガタゴト……
カブリオレタイプの馬車に揺られながら、ニコは完全に生気を失った表情をしていた。
あのあと調理を中断して火の元を確認してエプロンを外してクローズ看板を出して今に至る。急展開すぎる。
トム氏は御者も兼任しているらしく、広場で待機していた馬車を確認するや否や、助手席?御者の隣の席に座らされ、あれよあれよという間に広場を抜けて、メインストリートを抜けて、中心地から少し離れた森の方までやって来ていた。
死ぬほど目立った。
余程のことがない限り、この国に住んでいて庶民は馬車に乗ることなんてなかなかない。荷馬車の荷台に潜り込むことはあるかもしれないが、それも幼き日のイタズラか密入国者である。
しかし、思ってた以上に簡素な馬車だったのには、やや拍子抜けをした。馬車もピンキリであるが、二人乗りのカブリオレは若い貴族こそ小回りがきいて愛用しているが、国王の弟君が使うには質素すぎる。
執事と思しきトム氏が、御者を兼任していること。
つまりは、そういうことなのだ。
ニコはジェラルドの立場を思い、ちょっとだけ切なくなってしまった。




