36:リセット出来ないプレイなので
ちなみに、この「騎士団長の指輪置き去り事件」は、ショークラ本編にもゼルルートのイベントとして発生する。なので、指輪がただ一つしかない貴重品であることも、ゼルが口説こうとする相手に使っている常套手段であることも知っていた。が、まさか自分に使われるとは到底思ってもみなかった。
とりあえず、何故かゼルルートが解放されてしまった、らしい。確かに、ゲーム本編でもゼルは主人公にも誰に対しても友好的だったりするので、比較的攻略がしやすいキャラではある。
(……だとしても展開が急すぎやしないか?)
チョロすぎないか、この世界線のゼル。いや、チョロいというか、チャラすぎないか?彼の過去エピソードとかに触れると、もうちょっと切ない展開になったりするはずなのだが。
いやしかし。このまま流されて、ゼルルートを突き進んでよいものだろうか。今日のことが、この先他のキャラやシナリオにどのように影響を与えるのか全くわからない。むしろ昨日あたりからずっと新規シナリオを体験している感じだ。なんだか得した気分である。じゃなくて。
(当事者モードの、対主人公のイベントがニコに発生しているということは、まだ攻略対象キャラがゲーム本編の主人公と出会っていない可能性が高い。日付的にはゲームは始まっているはずなのに。これは私がいることによってニコの言動が物語に何かしらの影響を与えているから。そう仮定すると……)
まだ、出会っていない攻略対象キャラは、あと一人。今のニコにとっては、最も出会うことが困難な設定のキャラクターだ。
これ以上、深入りしてはいけない。と、思う反面、ゲームの主人公が現れるよりも先に、全ての攻略対象キャラに出会っておく必要があるのではないか、と思い始めていた。
この選択は確実に、ニコの人生をも左右してしまう。
しかし、何の因果かショークラの世界に転生した以上、悔いのないように行動したい、と思う。リセットボタンは存在しない、後戻りなし、一度きりのプレイなのだから。
新たな決意を胸に、ニコはゼルの指輪をハンカチに包むと、そっとベストのポケットにしまった。




