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30:推しの妹

「ニコさーん!」


その日の夕方、メインストリートから中央広場をぶらぶらして、日用品を買い物して帰る途中、聞き覚えのある声に呼び止められた。ニコのことを「さん」付けで呼ぶ知り合いは数少ない。振り返ると、青みがかった黒髪のセミロングヘアに、臙脂色のカチューシャを付けた制服の少女がニコを追いかけてきていた。

チェルシー・ワイズ。レインの妹。表現が微妙だが、レインの女体化かな?と思うくらい似ている。


「チェルシー。久しぶりだね。今日は一人なの?」


チェルシーの登下校は大抵レインが付き添っているはずなのだが……。


「お兄ちゃん、忘れ物?か何かしたみたいで、先に帰っちゃったんです。広場まで来てから別れたんですけど。そしたら、さっき途中でリュードさんにも会って。今日のランチはパンケーキだったんでしょ?いいなー、ニコさんのパンケーキ……私も混ざりたかったー」


おとなしそうな兄のレインと違って、チェルシーはよく喋るし表情がくるくる変わる。この国には女子が高等教育を受けられる学校が一つしかなくて、そこでは貴族や金持ちの庶民の子供たちに混ざって勉強しなければならずいろいろ大変だと思うのだが、そんな苦労は微塵も感じさせない、明るく活発な少女である。


「ごめんごめん。今日のは全部食べちゃったから、休みの日にでもまた店においでよ。好きな物作るから」


「ほんと!?なんでも!?」


「僕に作れるものならね」


「やったー!お兄ちゃんとリュードさんも誘おう!!楽しみだなー!」


中流階級からその学校に通っているのはチェルシーくらいなので、近所に学友がおらず、誘う相手が兄のレインや、知り合いのリュードになってしまうあたりが切ない。それでも本人の資質やレインの支えや周囲の協力のお陰で、真っ直ぐと育っている。


(リュード×チェルシーも可愛くて好きなんだよねー。ワイズ兄妹をダブルで相手できるリュードうらやまー)


ニコにとっても、彼女が幼い頃からの付き合いなので、気持ち的には近所に住む親戚である。

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