27:かくかくしかじかありまして
「……とまあ、そんなことがあってですね……」
「そいつは災難だったな」
その日のお昼すぎ。いつものように診療所にレインを迎えに行って、途中でリュードとばったり会って、三人で木陰の休憩スペースを陣取って、ニコはランチを食べながら、昨晩から今朝におこったことを順に説明していた。
パンケーキをバンズ代わりに目玉焼きや野菜を挟んだものを既に食べ終えたリュードは神妙な顔をしている。
「王国騎士団長と直接話す機会なんて、余程の事件でも起こさない限りないだろうしな。あと、もう一人……現国王の弟か。ニコ、お前ヘタしたら誘拐犯にされるところだぞ」
「もー、僕が浅はかだったことは重々反省してるからそれ以上責めないでよー」
リュードの言うことは最もである。ジェラルドがメインキャラだからか、そもそも特殊なキャラ設定だからかは分からないけれど、もしもごく普通の貴族に対して同じことをしていたら、感謝されるどころか狼藉を働いたと逆に罰せられかねない。ジェラルドとゼルが普通じゃない貴族様でニコは命拾いしたのだ。
「まあ普通に考えて、そんな有名人が酔っ払って倒れてるとは思わないよね。本当に、凄い確率というか……大変だったね、ニコ」
今日も推しが我に優しい。激甘。朝の複雑そうな表情はなくなって、気遣わしげに見つめてくるレインはいつものレインだった。
でもごめん、レイン。本当は「そんな有名人」だとわかってて手を出してしまったんです……確率とかじゃなく、その点に関しては100パー自分が悪いのです……。
心配してくれている推しに心の中で懺悔しながら、考えるのは「今後の展開」についてである。
「貴族様のお礼、ねぇ。金一封か?」
「お金は別にいらないからもう来ないでほしいなぁ」
庶民が聞いたら殴られそうなセリフだが、ニコにとっては本心である。ジェラルドが有閑貴族ならば、ニコは有閑庶民だ。贅沢しなければ働かなくても生きていける金額は入ってくるのである。穏やかな日々と美味しいコーヒーと推しの供給さえあれば生きていけるのだ。
「確かに。相手が相手だけに、関わると間違いなく面倒くさいぞ」
「だよねぇ」
「でも、さすがに来ないでとも言えないし、立場上、来ない訳にはいかないんじゃないかな」
「だよねぇ……」
リュードの言うこともレインの言うことも最もだった。
はぁ。ニコは深い深いため息をつく。
身から出た錆とはいえ、これからの展開を想像すると気が重い。




