26:幼なじみとしては複雑なようです
「ニコ、大丈夫?」
顔見知りのギャラリーたちをかき分けて、慣れ親しんだ声が降ってくる。
見上げると、心配そうなレインがこちらを覗き込んでいた。
しまった。急な出来事の連続ですっかり忘れていた。レインを店に放ったらかしにして飛び出してきてしまった。
「ごめんレイン、事情も何も説明せずに、僕……」
レインが手を引いて、ニコを立ち上がらせる。
「いや、それはいいんだ……うん……」
なんとも、言えない沈黙が流れた。
別に何もやましいことは無いし、昨日からの出来事を全部説明したらいいだけの事なのだが、ニコの中でも突然過ぎて整理仕切れてないところがある。どこから、どこまで、伝えたらいいのか。いろいろ考えていたら、第一声か出てこない。
レインはレインで、複雑な表情、困ったような、泣き出しそうな、そんな顔でニコを見つめるばかりだった。
あれ、これ、今どんな状況?
二人の間に流れる空気感に、ニコが違和感を抱いたところ、
「そろそろ仕事だから……行くね」
レインが先に沈黙を破った。
「うん……また、あとでね」
複雑そうな表情のまま微笑んで、レインは診療所へ向かうために去っていった。
(なんだか、余計、こんがらがってきちゃったような……)
レインの背中を見送りながら、ニコは嘆息した。
どちらにしろ、また昼過ぎにはランチのデリバリーでレインに会いに行くのだ。
それまでに、きちんと整理しておかなければ。
「やあ、ニコ。すっかり渦中の人だねぇ」
決意を新たに、一旦店に帰ろうと踵を返したところで、反射的にイラッとしてしまう声。いつの間にか、背後に魔法使いが忍び寄っていた。キリクさんだ。
「現国王の弟に、王国騎士団長。立て続けに上流階級の有名人と知り合うなんて……君って本当に不思議な子だなぁ。特別な精霊のお導きがあるのかもしれないね」
いけしゃあしゃあと、言ってのけるキリクさんに、ふつふつと怒りが湧き上がってくる。お導きも何も、キリクさんは精霊教信者でもなんでもないし、そもそも導いたのは精霊じゃなくてキリクさんである。
「幼なじみのカレはなんとも言えない顔してたねぇ。仲良しの君が別の男を連れ込んでたのがショックだったのかな?修羅場だ、修羅場!」
ぶちん。
からかうようなキリクさんの言葉に、流石のニコもイライラが沸点を超えた。
「もう金輪際キリクさんにはお裾分けしませんからね!!!」
言い捨てて、足早にニコはその場を立ち去ることにした。
「え?ちょっと、ニコ!そりゃないよー!」
今更慌てたキリクさんの声が追いかけてきたけれど、知るもんか。そもそも、現状もキリクさんが半分くらいは原因なのだ。しばらく、キリクさんの顔は見たくない。




