21:メインヒーローと一緒に朝食を食べよう
気が弱っているのか、妙に素直なジェラルドに、ニコは拍子抜けしていた。本来はもっと上からジェラルド様なのだ。それはもちろん、繊細すぎる内面の裏返しではあるのだけど、初対面でこうだと困ってしまう。どう対応していいやら。
「お礼なら、中流階級の住民を仕切っているキリク・ダンストさんに言ってください。僕だけの力ではどうにもならなかったので」
ここはひとつキリクさんも巻き込んでおくことにした。実際に、関わってるし。思いっきり。モブキャラが一人で助けたなんて話より、まだ筋が通るだろう。
「そうか……。では、改めて礼に参るとしよう」
まだ本調子じゃなさそうなジェラルドは、そう呟いてボーッとしている。うん、確実に弱っているな。そして、初対面の、モブキャラの庶民を前にして、強がったり繕ったりするスイッチが完全にオフになっているのだろう。上流階級の誰かが近くに居れば反応も変わったに違いない。
何だか少し、同情してしまったニコなのである。
昨日散々な目にあったというのに。半分は自業自得だけど。
「あの……お腹空いてませんか?普段何を召し上がってるか想像もつかないので、僕と同じもので、その、良ければ……」
沈黙が怖くて思わず勧めてしまったが、だんだん言葉がフェードアウトして行く。さすがに二日酔いにパンケーキはないだろ。重いわ。と、言ってる途中に気づいてしまったからだ。
「……ありがとう。では、お言葉に甘えよう」
ジェラルドは小さく微笑んでいた。気を遣わせてしまっただろうか。いや、そもそも庶民を気遣うようなキャラだったろうか。知っているはずのジェラルド像が揺らぐ。完全クリアした私でも、知らないジェラルドが、まだ、いるのか。
ニコは恐る恐る、ミルク多めのホットカフェラテをなみなみに注いだボウルと、パンケーキが4枚の皿と、あとさすがにお冷のグラスをトレーに乗せて、ジェラルドの席まで運んだ。
「……ニコは朝から相当食べるんだな」
苦笑するジェラルドに、まだ10枚以上残ってますとは言えなかった。




