19:お持ち帰りさせられてしまったようです
次の瞬間、背景が四葉珈琲店に変わった。
一階の客席。ちょうど入口から見える景色。
空間転移?それても時間の早回し?
キリクさんの「魔法」の効果に愕然としていると、気が緩んだのか、急に背中の重みが増した気がした。
「うわぁ!」
そのまま押し潰されるような形で倒れ込んでしまう。
脱力した人間は、重い。
すっかりジェラルドを背負っていたことを忘れていた。
「だぁぁぁぁ、もう!なんでうちに運ぶんだよ!」
うんうん唸っているジェラルドの下から這い出しながら、もう人目を気にすることもないので、ニコは心置き無く悪態をつく。
「くそー、まさかジェラルドとの邂逅イベントが急におこるなんて思わないじゃないかー!思わず反応しちゃったし、何かまた変なフラグ立てちゃってたらどうしよう……。しっかし、キリクさんも何かいつも以上に怪しかったし、やっぱり4月1日以降、何かが始まってるんじゃないのか……キリクさんも、何かの影響を受けてああなってるのか……。うあああ分からん!情報量でマウント取れるのが強みじゃなかったんかい!わからないことばっかりじゃないか!キリクさんを問い詰めたいけど、なんかもう、会いたくない!わざわざ自分から会いに行くなんて腹立つ!絶対に嫌だ!!」
一気に吐き捨てて、肩でハァハァと息をする。
言いたいことを全部口に出したら、ちょっとだけ落ち着いてきた。そして、振り返る。
ジェラルド・ジョリー。
夢じゃない。これは、現実。自業自得。
出会うはずのない現国王の弟君とモブキャラの少年が出会ってしまっぞ。本来なら、何も起きない。本来なら……。
引き返せない。イベントは、おこってしまった。
「……母上……」
酔いのせいか、それとも悪夢なのか、うなされているジェラルドが、ポツリと呟く。
「……やれやれ」
ジェラルドは賛否両論あるメインヒーローだった。メインなのに一番人気じゃないし、マザコン設定に拒否反応をおこすユーザーも多かったし。
でも、私は……結構好きだったんだよなぁ、ジェラルドルート。出来ることなら、この世界線でも、きちんとお母さんと和解できるといいんだけど。
……いや、そんな先の話より、まず今のこと、それから明日のこと、直近のことを考えなければ。
どう転んでいくんだ、この先?
とにかく、明日になってみないと、わからない。
最後の仕事と、ジェラルドを引っ張ってなんとかソファ席に寝かせた。貴族様を客席に寝かせるのは忍びないが、ニコの寝室は狭いし三階だ。さすがに階段を背負って登る余力はもう残ってない。
お客さん用のブランケットをかけてやって、ニコは嘆息した。
「つ、つかれた……明日全身筋肉痛決定……」
いろいろな意味で、明日が来るのが怖かった。




