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18:魔法使いには何でもお見通しのようです

「キリクさん!」


渡りに船。

いや、逆に今一番会いたくなかった人かもしれない。ニコを見下ろしてくる圧倒的なニヤニヤ顔を見て、それは確信に変わった。


「……お持ち帰り?」


「いや物理的にはそうなってるかもですけど!」


「ははは、その貴族のカレは何者だか君は知ってるのかい?ニコのことだからただのお節介なんだろうけど」


知ってる。厳密に言うとニコは知らないが私は知っている。どうやらキリクさんも、ジェラルドの身の上は知っているらしい。頻繁に出入りしている風はないし、そもそも精霊教と対立しているわけだが、上流階級居住区にも情報源はあるようだ。つくづく謎めいた人である。

そんなことはともかく、いいから早く手を貸してほしい。そもそも物理的に無理。そろそろ限界。

ニコが助けてと言う前に、


「うーん、でも、俺はそのカレに関わらない方が良いみたいなんだよねぇ。君も拾った相手が悪かったなぁ」


変わらぬニヤニヤ顔のまま、キリクさんはニコを谷底に突き落とす一言を言ってきた。


「ちょっ、そんなこと言わずに!そこを何とか!」


「ニコには世話になってるけど、そのカレを助ける義理はないしなぁ」


「キリクさん!!」


だんだん腹が立ってきた。ニヤニヤしながらのらりくらり躱してくる食えない男。ニコが慌てふためいているのを少しでも長く見ていたいとでも言うように。一瞬でもこの人を頼りにした自分が馬鹿だった!


「もういいです!!キリクさんには頼みませんから!!」


憤慨して、ニコはジェラルドを背負ったまま、再び、えっちらおっちら歩き出した。体力は限界に近いけれど、いつまでもこの人のまえにいても埒が明かない。


「おっと、ごめんごめん。これからどこへ行くんだい?」


キリクさんの横を通り抜けたあと、背後から問いかける声がした。


「診療所、です!!」


診療所ならレインもいるだろうし、あわよくばジェラルドの介抱もお願い出来るかもしれない。


「診療所、ねぇ……」


ニコの思惑を知って、何やら呟いて、キリクさんは考え込んだようだった。


「うーん……カレが診療所に渡ってしまうと、その後の展開の進行速度が変わってきちゃうんだよねぇ……」


(……は?)


思わずドキリとしてしまった。

聞き捨てならない。展開?進行速度?ショークラをやり尽くした私じゃあるまいに、一体、この男はどこまで知っているんだ?


「ここは仕方ない。精霊の力を借りるより他ないな、うんうん」


「ちょ、キリクさん……あなたさっきから何言って」


振り返ると、キリクさんは右手で懐から取り出した懐中時計を見つめながら、左手で右肩のマントを掴んでいるところだった。

その姿には既視感がある。

キリクさんが、「魔法」を使う時の姿だ。


「そのカレの面倒は、君が見なきゃダメってことさ」


その言葉と共に、バサリ、とキリクさんのマントが視界を覆った。直前に、懐中時計から光が漏れ出すのが見えた気がした。


暗転。



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