15:どこでフラグを立てたのかしら
ニコは攻略対象キャラと積極的に交流する特殊なモブキャラではあるが、普通のモブキャラらしく普通のモブキャラとも交流するごく普通の生活も、もちろん送っている(?)。
その日はリュードとを別れたあと、中央広場周辺の店や屋台を見て周り、顔見知りに声をかけたりかけられたりしながら、そのまま港へ向かって歩いた。
何となく、夕日が見たい気分になった。
ショーンクラウド港は、貿易と観光の要だ。漁師たちの色とりどりの漁船も美しく、それらは中央広場から港へ向かって下っていくとすぐ見えてくる。
港の横にはビーチがあり、アンリー海に沈む夕日は絶景スポットとして有名で、夏のリゾートの時期は人がごった返したりもするが、4月はそこまで観光シーズンではないので人影もまばらだ。付近の店や屋台も日暮れ時には閉まってしまう。
帰り支度をしている店員や漁師を横目に、ニコは人気のないビーチに降りていった。何も考えずに革靴で来てしまったが、さすがに今の時期まだサンダルの用意はしてない。
ぼんやりと、オレンジ色に染まる夕日と海を眺めていた。何か洗われて行くような、満たされるような。改めて、ショーンクラウド王国に転生したんだなぁとしみじみ噛み締めてみたり。
こんな風に、ただただ夕日を眺めるだけの時間。こんな贅沢な時間の使い方が、今はできるんだなぁ、なんて。
願わくば、こんなおだやかな日々を、ずっとずっと過ごせますように。
「ちょっと、お客さん!うちはもう閉店だよ!そんな所で寝てないで、とっとと帰っとくれ!」
……なんてことを考えていたら、全く穏やかじゃない怒声が耳に入ってきた。
振り返ると、ビーチ沿いのバールで、店員がテラス席のテーブルに突っ伏している人物の肩を揺すっていた。
「……マジかよ」
ニコは呟き、すうっと血の気が引いていくのを感じた。
思わずバッと振り返る。夕日。夕刻。
ショーンクラウド港。ビーチ。
まさか。そんな、まさか。
こんなタイミングで、フラグを立ててしまうなんて。
「貴様ぁ、……誰に、向かって、口をきいている……!俺は、俺は……」
「ハイハイ、お客さん、飲みすぎたよ。あんたがどこの誰だか知らないが、とっとと嫁さんにでも迎えに来てもらうんだね!全く、明るいうちっから酒飲んで潰れるたぁ、どこのお貴族様かねぇ」
おばちゃん、それ、正解です……。
「俺は、俺は……現ショーンクラウド王の、……」
実の弟君、ジェラルド・ジョリー。
この景色にも、会話にも、既視感がある。
これは、庶民ルートのジェラルド邂逅イベントだ!




