9:第3の男
「あ」
診療所を出ようとしたところで、目の前を歩いてくる見知った姿。目が合って、思わず声が出る。
服装が全身、黒一色。人気のない通りでは逆に目立つ。頭部を多い隠すフードから、切れ長の深紅の双眸が、ニコとレインの二人を捉えていた。
沈黙。
そして数秒後、くるりと踵を返した。
「ちょっと!」
ニコは慌てて後ろ姿を追うと、その腕を掴んで引き止めた。
バサッと勢いでフードが外れる。
美しい銀髪と、褐色の肌が顕になる。
「なんで逃げるんだよリュード!」
「……邪魔しちゃ悪いかなー、と」
「邪魔わけないだろ、もう」
無感情にフードを被り直しながら、目の前の青年はボソリと呟いた。
リュード・バリモア。
彼もまた、攻略対象キャラ6人のうちの1人である。
短く切りそろえられた銀髪と、赤い瞳、褐色の肌。一目でショーンクラウド王国の民ではないとわかる見た目を持つ彼は、実は先の世界戦争で滅んだとある国の王族である。ショーンクラウド王国の移民たちの根城、通称「貧民街」に流れ着いた彼は、レインの妹チェルシーを悪漢から救ったことから、レインと(その流れでニコとも)出会うこととなる。
恐らく、現段階で、リュードが亡国の王族であることは、レインは知らない。もちろん私は知っているけれど。
ただ、黒装束で隠しても溢れ出る高貴な見た目、さすがは攻略対象キャラである。やっぱり目立つ。華やかすぎる。特に彼の銀髪なんてツヤッツヤで、ニコのグレーの髪との差が歴然過ぎて切ない。これがメインキャラとモブキャラの差である。切ない……。
さておき、そういう影のある設定のため、言葉少なだったり表情の変化が乏しかったりするけれど、根は優しい良い奴である。ちょっと、変に気を使いすぎるくらい。
「何か診療所に……ていうか、レインに用があったんじゃないの?」
「どこか怪我でもしたのかリュード」
移民のリュードはこの国で就ける仕事が無い。……表向きは。腕っ節の強さを活かして、賞金稼ぎ的なことをして暮らしているようだ。だから、ちょいちょい怪我をしては友人のよしみで診てもらっているらしい。
「いや、たまたま近くに来たから寄っただけだ。急ぎの用はない」
「そうか……ならいいんだけど」
「じゃあせっかくだから、リュードも一緒に行こうよ」
何やらとっととその場から立ち去りそうな黒装束の裾を掴んだまま、ニコは提案した。




