8:推しとランチを食べよう
そのあとも他愛の無い世間話にしばらく付き合わされた後、キリクさんとは別れた。初対面の時のこともあり、あまり積極的には関わりたくない相手である。油断ならないから一緒にいてちょっと緊張するし。立場上、というか設定的に、全く関わらないのも不自然なのが厄介だ。
すっかり時間を取られてしまった。
変わらず活気のある中央広場を通り抜けて、四葉珈琲店とは逆サイド、西側のメインストリートに入る。昔ながらの商店が立ち並ぶ通りをしばらく行けば、レインの職場である診療所が見えてくる。
ちょうどお昼休みの時間帯で患者さんは居ない。周囲の人気もまばらだ。
入口のガラス越しに中を覗くと、受付にレインの姿が見えた。カルテの整理に集中している。本当に、この診療所でレインは何でも屋さんだ。人手が足りてないんじゃなかろうか。たまに、ニコも駆り出されたりしているし。
入口は施錠されていたので、コツコツとガラスを叩いてアピールしてみる。レインの集中力は人並外れているが、そこは幼なじみのよしみ、もしくは推しへの熱い念のお陰か、わりとすぐこちらの存在に気づいてくれた。
「ニコ!来てくれたんだね、ありがとう」
「遅くなってゴメン。お疲れ様。外、出れそう?」
「ひと段落ついたところだから、大丈夫。行こう」
男ふたりでピクニック、というのもどうかと思うが、だいたい晴れの日は気分転換にちょっと散歩して外で食べることが多い。中央広場から伸びるメインストリートには木陰やベンチなど憩いのスペースが点在している。
診療所の鍵をかけたレインとともに、ニコは診療所に背を向けた。




