11-1
「助けてくださーい!」
街の目抜き通りを歩いていると、そんな声が聞こえてきた。
後ろを振り返ると、半泣きになりながらこちらに向かって走ってくる少女がいた。
ちっちゃな背丈。
緑のベレー帽。
いつも通っている道具屋の店員ココだ。
ココは「誰か助けてくださーいっ」と泣きながら、通行人を縫うようによけながら走っていた。
「あっ、トキヤさん。ちょうどいいところに!」
俺の存在に気付いたココは俺のところまでたどり着くと、すかさず俺の背後に隠れた。
安心したのか、額の汗をぬぐうココ。
「どうした。魔物が街に入り込んできたのか?」
「ううう……。ある意味魔物よりも怖いですっ」
「ちょっと、待ちなさい!」
次いで登場したのはセレナ。
通行人を肩でどけながら一直線に俺とココのもとまで走ってくる。
ココが俺の背中にピタリと張り付く。
セレナが俺たちをぎろりとにらんでくる。
恐ろしい形相だ……。
こういうときのセレナには絶対近づいてはならいと幼馴染の俺は知っていたが、もはや逃げるには間に合わなかった。
「ココー! これぜったいバグだってー!」
「だから私じゃどうにもならないんですってば」
「だってココの店で引いたのよ。ぜったいなんとかなるでしょー!」
「なりませんよーっ」
「お、おい、セレナ。話が見えないんだが。ココとセレナの間でなにかトラブルでもあったのか」
どういう状況なのかわからないが、どうせまたセレナが勘違いで暴走しているのだろう。
「セレナちゃーん。ココちゃんは悪くないよー」
遅れてクラリーチェも現れた。
「わたしたちが『プリズムドレス』を手に入れられなかったのはココちゃんのせいじゃないよ」
プリズムドレス……?
ここ最近、その単語を耳にしたことがあったような気がする。
……思い出した。
「『プリズムドレス』って確か、今回の『ガチャ』のピックアップか?」
「はい、そうです」
ココが返事をした。
そして先ほどのセレナの『バグ』なる発言。
なるほど。話が見えてきた。
「セレナさんとクラリーチェさん、『プリズムドレス』が欲しいらしくてウチの店でガチャをまわしたんですが――」
「全部ハズレだったわけだ」
「はい」
「だってありえないわよ。アタシとクラリーチェが持ってる『オーブ』ぜーんぶ使ってガチャをまわしたのに当たらないのよ。ガチャの中に当たりクジが入ってないとしか思えないわ。バグに違いないのよ。ココ、ガチャの中身ぜんぶ見せてよ」
「だから私も見れませんってー!」
「えっ、オーブ全部使ったのか!?」
めまいがしてきた……。
『ハルベリア・オンライン』には通貨が二種類ある。
一つは一般的な通貨としてプレイヤー間で広く流通している『ゴールド』。魔物を倒したりアイテムと売却したりして手に入るものだ。
そしてもう一つは『オーブ』。
これは現実世界のお金で買うことができる特殊通貨で、ゲーム内で無料で入手するには一度きりの高難易度クエストをクリアしたりすることでしか手に入らない。一定時間経験値やゴールドの入手量を増加させたりストレージの容量を増やしたりする特殊アイテムを買うためや、セレナが先ほど言った『ガチャ』をまわすために使われる。
そしてガチャとは、一言でいえばゲーム内のくじ引きである。ゲームによってはルートボックスとも呼ばれている。
セレナはガチャの当たり景品である装備品『プリズムドレス』が欲しくてガチャをまわしたが当たらず、店員のココに無茶を言ってきたのだ。




