1-7
セレナはドラゴンが倒れていた場所に目をやる。
ドラゴンは光の粒子となって消滅しており、もはやそこには何もない。
「トキヤがドラゴンを一撃で倒した……?」
「幻獣の力を借りたんだ」
「ド、ドラゴンを倒すのはアタシだったのよ!」
「セレナちゃん!」
ぽこんっ。
クラリーチェがげんこつでセレナの頭を叩いた。
クラリーチェは目に涙を浮かべてセレナを見つめている。
「クラリーチェ……」
「トキヤくんはわたしたちを助けてくれたんだよ。パーティーから追い出しちゃったのに。それなのに追いかけてきてくれたんだよ。もっと他に言うことがあるはずだよっ」
「……そうだったわね。ごめんなさい」
セレナはしゅん、としおらしくなり素直に謝った。
――それと、ありがと。
そっぽを向いたセレナは小声でそう言った。
これで少しは勝気すぎる性格にも歯止めがかかったかな?
俺は幼馴染の強すぎる気性を心配した。
「トキヤをまたパーティーに入れてあげてもいいわよっ」
「はは……。さんきゅーな」
「……ごめん、言い直すわ。――アタシとトキヤとクラリーチェの三人で、またがんばりましょ」
「えへへっ。これで幼馴染三人パーティー再結成だねっ」
クラリーチェが俺とセレナの手をそれぞれ握って三角形をつくった。
もう一人の幼馴染であるクラリーチェのことも俺はよく知っている。誰とでも打ち解けられる、やさしい女の子だ。
セレナとは真逆の性格。
そのせいでとばっちりを受けることも少なくないのに、よく友達を続けていられるな、と感心していた。……とばっちりに関しては俺もそうなのだが。
「まあ、頭数は多いほうがいいし。トキヤも本気を出せば強いのがわかったし」
セレナの強がりはさみしさの裏返しでもあるのだろう。
クラリーチェが俺の手を握る。
「わたし、トキヤくんのこと、信じてたよ。本当はとっても強いんだ、って」
「ただのバグなんだろうけどな」
「そんなことないよ。これがトキヤくんの隠れてた力なんだよっ」
クラリーチェの優しさが心にしみる。
「トキヤはこの力の帳尻を合わせるために全ステータス初期値のままなのかしら」
「かもな」
このチートじみた能力、ありがたく使わせてもらおう。そうでもしないとこの悲惨なステータスを補えないからな。
そういえば――とセレナが言葉を続ける。
「トキヤとの約束、果たせなかったわね」
「約束?」
「ドラゴンを倒して素材を手に入れたらトキヤの装備をつくってあげる、って約束。結局、ドラゴンやっつけても素材ドロップしなかったじゃない」
「しかたないさ。今回に関しては勝てただけでもじゅうぶんすぎる成果だろ」
「アタシの予定だと、ドラゴンなんて楽勝だったんだけどなぁ」
無謀に等しいその自信はいったいどこからわいてくるんだ、幼馴染よ……。
「あっ、それよりも称号! 称号を確認しなくちゃ」
俺たち三人はそれぞれタブレットを起動させて『ステータス』のページから『称号』の欄を開く。
「あったわ! 『ドラゴンスレイヤー』!」
そこにはセレナのお目当てであった『ドラゴンスレイヤー』の称号があった。
セレナはすかさず表示称号を『ドラゴンスレイヤー』に変更した。
セレナは目をキラキラと輝かせてタブレットを長い間見つめていた。
「街に戻ったら他のプレイヤーたち驚くわよ。これからは『ドラゴンスレイヤーのセレナ』としてクエストを受けられるわよっ」
「でも、いいのかな。ドラゴンをやっつけたのはトキヤくんなのに」
「アタシが最初に戦ってドラゴンのスタミナを削ってあげたんだから、もらう権利は当然あるわよ。ねっ、トキヤ」
「まあ、そういうことにしておくよ」
俺は苦笑した。