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セレナは肩で息をしながらどうにか剣を構える。
ドラゴンが地上に降りる。
セレナは猛然と走りだし、ドラゴンへと急接近した。そしてドラゴンの首に剣を叩きつけた。
ドラゴンが悲鳴を上げる。
頭上のHPバーがわずかに減る。
「ウソ、こんだけしかダメージを与えられないの……?」
ドラゴンの憤怒の咆哮。
結果としてセレナの攻撃はドラゴンを怒らせるだけでしかなかった。
やっとの思いで入った一撃がほとんど効かず、セレナはその場で膝をついて絶望していた。
「トキヤくん。セレナちゃんを運んで逃げよう!」
クラリーチェがすがりついてくる。
しかし俺は、彼女の望むものとは別の答えを口にした。
「いや、俺がドラゴンを倒す」
「トキヤくんが!?」
俺は『エンチャント』された槍を手にセレナのそばへと駆けつけた。
「トキヤ!?」
「俺ならドラゴンを倒せる。絶対に」
俺はドラゴンと対峙する。
タブレットを確認する。
エンチャントの効果時間は――残り2分。
じゅうぶん間に合う。
ドラゴンが再び飛翔する前に、俺は全速力でドラゴンの懐へと接近した。そして槍の間合いまで詰めると、光り輝く槍で思い切りドラゴンの腹を突いた。
ほとばしる閃光。
光の刃が天まで伸び、ドラゴンの図太い胴体を貫通した。
悲鳴を上げるドラゴン。
頭上のHPバーがみるみる減っていく。
恨めし気に俺を見下ろすドラゴンで合ったが、反撃をする前にHPバーが完全に赤色になり、戦闘不能になった。
横倒しになるドラゴン。
すさまじい振動。
砂埃が巻き上がる。
戦闘不能になって倒れたドラゴンは、光の粒子となって徐々に消滅していく……。
あっけにとられているセレナとクラリーチェ。
「セレナ! 俺を今すぐパーティーに入れてくれ!」
「えっ、どうして……?」
「経験値の分配だ!」
呆然とするセレナはタブレットを操作して俺にパーティー申請を送った。
俺は『パーティー加入』をタッチする。
■パーティー
1:セレナ(フェンサー) リーダー
2:クラリーチェ(ヒーラー)
3:トキヤ(ランサー)
ドラゴンの姿が光の粒子になって完全に消滅すると、パーティー全員にドラゴン撃破の経験値が入った。
俺の槍に宿っていた『エンチャント』の効果が切れる。
元のエリアに強制的に戻されたのだろう。俺の槍から光の玉が出現し、山のふもとへと飛んでいった。
――俺、役に立ったか?
「ああ。ありがとう、幻獣」
これで俺はまたへっぽこなレベル15に戻ってしまった。