6-8
ピロンッ。
クラリーチェのタブレットから通知音。
ファウストからのアイテム譲渡申請だ。
ヤツからのアイテムは『青色貝殻のイヤリング』。
クラリーチェはすぐさま『承諾』ボタンをタッチした。
これにより、イヤリングはセレナのストレージへと転送された。
「試練を乗り越えし者に褒賞を」
「なにが褒賞よっ。もともとアタシたちのものだったじゃない!」
「それにしても少年よ、面白いものを見させてもらった」
ファウストの『面白いもの』とは『エンチャント』のことだろう。
この力は――少なくとも『エンチャント』による攻撃力の増加値は明らかにバグなので、あまり他人には見せたくなかったのだが、さすがにこの妙なロールプレイをする男がいちプレイヤーの義務として律儀に運営にチート通報なんてしないだろう……。
「キミのその力は神が与えし聖なる力か、あるいは悪魔が宿せし邪悪なる力か……。いずれにせよその力、使いこなせることを祈っているよ」
むしろこの男は俺の特異な能力を目のあたりにして喜んでさえいた。
セレナが剣の切っ先をファウストに向ける。
「さあ、次はあんたの番よ」
「私の番とは?」
「バトルに決まってるじゃない! 降りてきて勝負なさい!」
PvP申請をタブレットから送信するセレナ。
ピロンッ。
――PvPは成立しませんでした。
ファウストはセレナからの挑戦状をあっさりと拒否した。
「なんでよ!?」
「私は試練をもたらし、見届けるのが役目。あくまでもね」
「意味不明だしっ。アタシはいっぺんあんたをぶっ飛ばさなくちゃ気が済まないのよっ。散々苦労させたお返しよ!」
「セレナちゃん」
「なに? クラリーチェ」
セレナが振り返る。
「えへへー」
クラリーチェはさっそく『青色貝殻のイヤリング』を耳につけていた。
「どう? 似合う?」
「さっそく装備したのね。似合ってるわよ。でも、今はあいつの――って、いない!?」
俺たちがクラリーチェに気を取られている間に、ファウストは忽然と姿を消していた。
まあ、ワープクリスタルで帰還したのだろう。
「わたしはイヤリングを取り戻せたから、バトルはもういいかなーって」
「……まあ、クラリーチェがそう言うなら」
とは言うものの、セレナはうっぷんを晴らしきれないようすだった。
ファウストと名乗ったシルクハットの紳士。
何者なのだろうか。
今回の件だけで判断するならば、アイテムを詐欺トレードで奪った挙句、MPKをしようとした悪質な違反プレイヤーだ。ロールプレイの範疇を超えている。これが普通のオンラインゲームならば即刻アカウント削除――垢BANだろう。
だが、俺はどうしてかファウストには因縁めいたものを感じずにはいられなかった。
これが普通のオンラインゲームじゃない、VRMMORPGと異世界が融合した『ハルベリア・オンライン』だからだろうか……。
「トキヤくんっ。イヤリング……えっと、似合ってるかな?」
クラリーチェがおずおずと俺に尋ねてくる。
「似合ってるぞ」
「えへへっ。やった」
俺がうなずくと、彼女は頬を赤らめてはにかんだ。
思わず俺も笑みを浮かべてしまう、かわいいしぐさだ……。
と、そんな俺と彼女の間にセレナが強引に割り込んでくる。
眉間にしわが寄っている。
これは八つ当たりされる予感……。
「ちょっとトキヤ、鼻の下伸びてるわよ」
「いや、伸びてないから」
「伸びてるっての!」
セレナは俺の脇腹を指でつついた。
それから俺たちは職人街へと戻り、マルガレーテさんにイヤリング奪還の報告をした。
「今回はホントにゴメンね。お詫びに好きなアクセサリーをみんなにあげちゃうっ」
「わーいっ。ありがとうございますっ」
「アタシはアクセサリーとか興味ないんで、クラリーチェに2個選ばせてあげてください」
「そんなのもったいないよセレナちゃん。ウチがセレナちゃんに似合うアクセサリー選んであげるっ。彼氏もきっと喜ぶよ」
「なっ!? トキヤはカレシじゃないです!」
「トキヤくんが彼氏なんてウチ一言も言ってないけどー?」
「ここに男の子はこいつしかいないでしょ!?」
そんなこんなで、今日は最後の最後まで慌ただしかった。
【あとがき】
小説家になろうの機能『ブックマークに追加』で応援していただければ嬉しいです。
執筆活動の励みになります。




