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「レベル25ですって!? どういうことよ!」
この『アークトゥルス荒原』の適正レベルは15。
つまり出現する魔物はどれもレベル15で相手にできる程度の強さに設定されている。出現する魔物のレベルは高くても17程度だ。
しかし俺たちの前に立ちはだかる巨人の魔物サイクロプスのレベルは、適正レベルを大幅に上回る25だった。適正レベルでは『狩り』なんてとてもできない、ボス戦相当の死闘を強いられる差である。
「……ファウストのやつ、連れてきやがったな」
「連れてきた?」
「ああ。後半ダンジョンからわざわざ高レベルの魔物を連れてきたんだ!」
『ハルベリア・オンライン』のダンジョンは基本的に前半と後半にエリアが分かれている。前半と比べて後半のエリアは高レベルの魔物が出現するようになっている。
ファウストはその後半エリアからわざわざサイクロプスを連れてきたのだ。おそらくは弱い攻撃を断続的に当てて常に自分に敵意を向けさせながら、ここまで。
神の眼の男だとか大層なことを言っているが、やっているのは強い魔物をけしかけて他のプレイヤーを意図的に倒させる違反行為――MPKだ!
「おや、先ほどの威勢はどこへいったのかね?」
ファウストは巨岩の上から高みの見物を決め込んでいる。
じりじりと後退する俺とセレナ、クラリーチェ。
レベル差10もある魔物の攻撃をくらってしまったら俺はもちろん即死で、セレナたちも致命傷を負うだろう。うかつに攻撃すれば反撃であっという間にやられてしまう。
倒されてしまうだけならまだいい。経験値を80%失うのは痛いが、時間をかければ取り戻せるのだから。
しかし、それでファウストに試練に破れたと判断されれば最悪、イヤリングは二度と取り返せない。
つまるところ、俺たちはなにがなんでもサイクロプスに負けるわけにはいかないのだ。
「レベル10の差くらい、アタシの剣さばきで埋めてあげるわよっ」
「わ、わたしも補助魔法がんばるっ」
セレナとクラリーチェが覚悟を決めた。
「俺は……」
「トキヤは全力で幻獣さがしてきなさいっ」
「すまんっ。あとは頼む!」
俺はこの場をセレナたちにまかせ、サイクロプスに背を向けて走り出した。
格好悪いが、こうしなければ俺はまともに戦えない。
走りながらタブレットを起動させ、マップを開く。そして緑色のアイコン――幻獣が付近にいないかさがす。タブレットのマップは自分の付近の情報しか読み取れないから、とにかくこのダンジョンを隅々まで走って幻獣をさがすしかないのだ。
自分の目でも周囲を見渡して幻獣の姿をさがす。
そもそもこの『アークトゥルス荒原』、幻獣どころか通常の魔物や採集アイテムすら少ない。枯れ果てたこのマップにはひび割れた赤茶色の大地と角ばった岩くらいしかないのであった。
幻獣はどこだ!
俺は体力の続く限り大地を走る。
建築物や植物の無いこのダンジョンは遠くまでを視認でき、360°全方位見渡しても幻獣はいない。それでも俺はどこかに幻獣が出現してくれと祈りながらダンジョンを探索した。
ダンジョンでは常に魔物や幻獣、採集アイテムが自動で出現する。それに期待するしかない。
タブレットの項目を切り替えてパーティー一覧に目をやる。
セレナのHPが半分に減っている。
クラリーチェのMPも残り1/3。
それらがサイクロプスとの激闘を物語っていた。
急がなければ。
「あれか!?」
目の前になにかが出現した。
風になびく長いたてがみを生やした馬の生き物だ。
魔物か。
幻獣か。
タブレットのマップを見る。
アイコンのカラーは――緑色!
幻獣だ!
しかし、そのときだった――。
次の瞬間、赤色のアイコン――魔物が幻獣の目の前に出現し、幻獣に攻撃をはじめたのは。




