6-1
マルガレーテさんの言葉に戸惑ったのは俺だけではなかった。
「『どうしたの?』って、そりゃあもちろん――」
「イヤリングを取りにきたんですっ」
「へ? どゆこと?」
マルガレーテさんはわけがわからないといったようすであったが、それは俺たちも同じであった。四人とも頭の上に疑問符を浮かべている奇妙な状態になっていた。
『青色貝殻』を加工してイヤリングをつくる依頼を忘れてしまったのか。
いや、そんなことありえない。
レア素材に目がくらんで、依頼を受けていないとしらばっくれているのか。
それこそ絶対にありえない。マルガレーテさんはそんなことをするようなプレイヤーではない。
困惑している俺とセレナとクラリーチェに、マルガレーテさんは笑いながら言った。
「『青色貝殻のイヤリング』ならさっき渡したじゃなーい」
「えっ!?」
三人同時に驚きの声を上げた。
どういうことだ?
俺たちは立った今、宿屋から一直線でこの店に来たばかりだというのに。
「マルガレーテさん、俺たちは今日初めてこの店に来たんですよ」
「そだねー。ウチが渡した相手はキミたちのリーダーにだよ。もしかして入れ違いでキミたちが来ちゃったのかな?」
「リーダーはアタシよ!」
セレナが手を挙げる。
するとマルガレーテさんは「ほえ?」と首をかしげる。
「おヒゲを生やしたシルクハットのおじさんじゃなくて?」
「誰それ!?」
正体不明の人物がマルガレーテさんの口から出た。
「8時半ごろだったかな? まだ開店前だったけど、そのシルクハットのおじさんが来店してきたんだよ。『青色貝殻のイヤリング』を引き取りにきた、ってね。トキヤくんたちの名前を出してたし」
「わたしたち、三人パーティーですっ」
しん……。
静まり返る店内。
どういうことなのか……。
俺も、セレナも、クラリーチェも、マルガレーテさんも戸惑っている。
沈黙。
ひたすらに長い沈黙。
マルガレーテさんは事態が重大なことに徐々に気付き始め、戸惑いから焦りに表情が変わっていた。かわいそうなくらい顔を青ざめさせていた。
長い沈黙は俺たち四人をある結論に到達させるのにじゅうぶんな時間だった。
居心地の悪い静寂を破ったのはセレナだった。
「詐欺師ねそいつ!」
怒りをあらわに大声で言った。
「アタシたちのリーダーを騙ってイヤリングを横取りしたのよ!」
おそらくはそのとおりだった。
マルガレーテさんは自分がしでかした失態を言葉にされたせいか、猫みたいな目をしきりにしばたたかせている。そして次第にその瞳の端に涙が浮き出てきた。涙がいっぱいにたまると、まばたきした拍子に弾けとんだ。
「ごっ、ごめん! ウチのせいでイヤリング取られちゃった!」
マルガレーテさんはついにカウンターに突っ伏して泣き出してしまった。
「マルガレーテさんは悪くないですよっ」
クラリーチェがマルガレーテさんの背中に手をやってなぐさめる。
「クラリーチェの言うとおり、悪いのはそのシルクハットのプレイヤーだ」
「そうよそうよ!」
「そうですそうですっ」
レアアイテムのトレード関係にトラブルや詐欺はつきもの。
とはいえ、その被害者に俺たちがなるなんてな……。
「マルガレーテさん。そのシルクハットのプレイヤー、名前は言ってましたか?」
「んーん、言ってなかった。ウチったらホントにバカだ……」
まあ、よしんば名乗っていたとしても十中八九偽名だろうが。
しかし、俺はそのプレイヤーの名前を判別する方法を知っている。
「マルガレーテさん、タブレットを貸してもらえませんか」




