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幻獣の力を宿した槍がゴーレムの腹を貫く。
初期装備で最も攻撃力の低いこの槍では序盤の魔物すら倒すのに苦労するはずなのに、エンチャントの力を宿したこの槍は一撃でゴーレムの胴体をバラバラに粉砕した。
ゴーレムの頭上に表示されていた黄色いHPバーがすごい勢いで右から左へと赤色に変わっていき、一瞬にして赤色――つまりはHPが0になった。
胴体を破壊され、瓦解するゴーレム。
崩れたゴーレムはやがて消滅した。
ゴーレムを撃破した。
それもソロで。
ついでに言うと、通常攻撃で。
死にものぐるいで攻撃したから見られなかったが、おそらくカンストダメージを叩きだしていただろう。
――肉のお礼、したぞ。
オオカミ型幻獣はもとの姿に戻り、俺の足元に立っていた。
俺の攻撃力は11に戻っていた。
「ありがとう。で、でも、これってバグだよな?」
――バグ? よくわからん。肉くれ。
「まあ、そうだよな……」
ゲームのNPCである幻獣に聞いたところでわかるわけがなかった。
『ハルベリア・オンライン』運営にバグ報告しようか。
タブレットの『運営に報告』をタッチしようとしたが、俺はその指を止めた。
せっかく最強の力を手に入れたのに、運営に報告してしまってはまた最弱に逆戻りしてしまう。
――という、個人的なわがままが無かったといえばウソになる。
「最弱なんだか最強なんだか。どっちなんだろうな、俺」
レベルをいくら上げてもステータスがちっとも上がらないのを俺は幾度も運営に報告しているが、返事はテンプレートの「ご報告ありがとうございます」のみで、まともな回答は一度たりともきていない。むろん、ステータスの修正も。だから俺は個人的に運営をあまり信用していなかった。
『ハルベリア・オンライン』は、人体をデジタル化してゲーム内を冒険する『VRMMORPG』と、俺たちの暮らす世界とは別次元に存在する異世界『ハルベリア』が『次元衝突』してしまった世界である。
「半分がバーチャルで、半分が実在の世界、か」
俺やセレナ、クラリーチェはプレイヤーでバーチャルの部分。そしてこのオオカミ型幻獣や街のNPCたちは異世界ハルベリアでもともと暮らしていた実在『だった』の部分である。ハルベリアの住人たちはゲームの世界に取り込まれてしまったのだ。
「運営でもわからないことだらけなのだろうな」
実際のところ、俺たちプレイヤーは未だに『ログアウト』できないのだから。
VRMMORPGのクローズドベータテスト中にログインしていた俺たちプレイヤーは、そのゲームと異世界ハルベリアの『次元衝突』が起こって世界が融合してしまってからログアウトできずにいるのだ。運営はそれを『イベントの一環』だと主張しているが、どう考えても明らかに異常事態である。
とはいえ、俺たちプレイヤーは現実世界から切り離されており、なすすべがなく、せいぜい『運営に報告』機能で文句を言うくらいしかできないのであった。
「現実世界では運営はどんな言い訳をしているか知りたいもんだ」
ピロンッ。
タブレットが個人メールの通知音を鳴らす。
メールはクラリーチェからであった。
――トキヤくん、助けて!