1-3
「やばい! ゴーレムだ!」
岩を組み上げて作られた巨大な人形の魔物ゴーレム。
その頭部に据えられた丸い宝石の眼球には、俺の姿が丸みを帯びて映っていた。
ゴーレムはまずい。
ゴーレムと戦うための適正レベルは20以上。15レベルではレベル補正でまったく歯が立たない。そもそも俺のステータスはレベル1相当だから、よしんば適正レベルでもあったとしても勝ち目なんて皆無だ。
選択肢は一つ――逃げるのみ。
悔しいが、ソロプレイの俺には逃げることしかできない。
大岩の拳を振り上げ、俺の頭上めがけて振り下ろしてくるゴーレム。
真横に転がって間一髪で回避する。
悲しいかな。よけたり逃げたりする判断力だけは抜群に養われているのだ。俺は。
ゴーレムは攻撃力が極めて高い代わりに、動きがのろい。逃げることはじゅうぶん可能だ。
さっさと逃げて町の宿屋でセレナとクラリーチェの帰りを待とう……。
ところが、俺の逃走を阻止する者がいた。
――トキヤ、戦え。
俺が肉をくれてやったオオカミ型の幻獣であった。
幻獣は俺の服の裾をくわえて、逃げるのをとどめていたのだ。
「相手はゴーレムだぞ! レベルが違いすぎる!」
――安心しろ。俺も戦う。
「お前も戦ってくれる……?」
信じられなかった。
幻獣は人間に友好的だが、共闘できるシステムがあるなんて聞いたことがなかった。
――肉のお礼。お前に力貸す。
幻獣の姿が光りだして半透明になる。
そしてその姿が完全に光の球体になると俺が持っていた槍と融合した。
槍が激しく輝いている。
慌ててタブレットを開いてステータスを確認する。
攻撃力10010!?
異常だった。
ステータス欄の幅からして各ステータスの数値の最大値は999だと思っていた。しかし今、俺の攻撃力はそのケタを二つも上回っていた。
俺自身の攻撃力は初期値の1。
初期装備の槍の攻撃力は10。
そしてオオカミ型幻獣が宿ったことを示す謎の項目『エンチャント』の値が9999となっていた。ステータス欄の枠をぶち抜いてその数値が表示されているのである。攻撃力だけ見ればレベル99どこか9999レベルはある。誰がどう見てもバグである。
エンチャントなんて項目、今までなかったはずだ……。
スキル欄を開くとそこにも『エンチャント(幻獣)』と表示されていた。
――トキヤ、戦え。
槍に宿ったオオカミ型幻獣が俺に言う。
バグでもなんでもいい。今ならゴーレムに勝てる。
もどうにでもなりやがれ! どうせ失うものなんてないんだ!
「うおおおおおっ!」
俺は輝く槍を両手に握ってゴーレムに立ち向かい――
「くらええええええっ!」
渾身の『通常攻撃』を繰り出した。