3-5
俺とサーベラスのPvPがはじまった。
カウント10、9、8……。
「トキヤくん、お願い。セレナちゃんの称号をサーベラスから取り戻して」
「や、やれるだけやってみる……」
幻獣はまだ見つからない。
平原をうろついているのはスライムばかり。
こういう初心者向けダンジョンは幻獣が割と頻繁に出現するはずなのに、今日に限って姿かたちも見当たらない。どれだけ運が悪いんだ、俺は!
5、4、3、2、1――0。
カウントが0になった瞬間、俺はサーベラスに背を向けて全速力で逃げた。
「なっ、いきなり逃げやがった!?」
さすがのサーベラスも開幕逃げ戦法には驚いたらしかった。
俺は『陽だまりの平原』をひたすら駆けた。
走る理由はもちろん、幻獣をさがすため。
俺がサーベラスを倒すためには幻獣の力を借りる『エンチャント』スキルがなんとなしても必要になる。これがなければ俺はただのレベル1プレイヤーだ。
さがすだけではない。幻獣を運よく見つけたとしても、力を貸してもらう交渉をしなければならない。
やることが多い……。
「ぐおっ」
不可視の壁にぶつかった。
PvPエリア限界に到達してしまった。
PvPはガン逃げ戦法ができないよう、エリア限界が開始と共に設定される。
俺はエリア限界に沿ってとにかく走った。
サーベラスは――よかった、追ってきていない。
サーベラスは俺が逃げ惑うさまを笑いながら見物している。
それでいい。
そのまま一生見物していろ。
『陽だまりの平原』を走っていると、この『ハルベリア・オンライン』をプレイしはじめた初心者の頃を思い出す。あのころはファンタジーの世界に実際に入ることができて、おどろきでいっぱいだった。スライムを槍でつついて倒すだけでも楽しかった。そこらへんに落ちている素材を拾うだけでも楽しかった。いくらレベルを上げてもステータスが1ポイントたりとも増加しないなど、あのころは思いもよらなかった。しかもログアウト不可になって脱出不可能になることも……。
先ほどから走っているが俺たち以外のプレイヤーとは未だ会っていない。
この世界に閉じ込められたほとんどのプレイヤーはすでにレベルを上げて、もっと先のダンジョンに挑んでいるからだ。閉鎖世界と化した『ハルベリア・オンライン』の平均レベルは少しずつだが上がっていき、低レベル向けのダンジョンは需要がなくなりつつあるのだろう。
「いた! あそこか!」
散々走り回って、ようやく幻獣を見つけた。
幻獣はスライム型だった。
敵として戦うスライムは水色だが、幻獣は桃色をしていた。
俺は幻獣に接近するなり「力を貸してくれ!」と語りかけた。




