21-12
休憩を終えた俺とミカさん、コルデリアは腰を上げて冒険を再開した。
赤々と煮える溶岩のそばを歩いていく。
これはゲームだから落っこちても単なるデッドで済むが、やはりこんな灼熱の底に落っこちるのはゴメンだ。
デッドといえば、俺やミカさんとは違ってコルデリアはこの世界ハルベリアの住人――NPCだ。確証はないがデッドしたら永久ロストの可能性もあり得る。魔物との戦いでは最優先で彼女を守ってあげないと。
「コルデリア、無茶だけはするなよ。コルデリアの剣の腕前はさっき見せてもらったが、それでも死んだら元も子もない。三人で連携して戦うことを意識してくれ」
「かしこまりましたわ。トキヤさまはおやさしいのですね。ふふっ」
コルデリアが目を細めた。
「トキヤさまがわたくしと同じ大きさでしたら、ぜひとも妻にしていただきたかったですわ」
「ははっ……。ありがとな」
「トキヤくんは人気者だね」
二人にからかわれてしまった。
それから雑魚敵との戦闘を何度か繰り返しながら洞窟の奥へと順調に歩を進めていったが、肝心のリネームカードはどこにも見当たらなかった。宝箱を発見し、中を開けるたび、ミカさんは「またハズレだね」と落胆したのだった。
そしていよいよ洞窟の最奥へと辿りついた。
そこが最奥だと何故わかったかというと、あからさまにボスがそこを守っていたからだ。
「フレイムスピリット。レベルは――30だ」
タブレットをかざした先には鬼火のような炎のかたまりが浮遊していた。
その名のとおり、炎の精か。
フレイムスピリットは最奥の広い部屋の中央で上下に揺れながらごうごうと燃え盛っている。炎の中心には巨大な眼球が一つあり、部屋の外に立っている俺たちをじっと見つめていた。
視認はされているが、部屋に入らないかぎり戦闘にはならないらしい。
「あの姿からして、武器での攻撃は通じそうにないね。トキヤくん。キミの『エンチャント』ならどうだい? 槍からほとばしる光の奔流ならダメージを与えられそうだが」
「いけると思います。コルデリア、エンチャントを頼む」
「わかりましたわ」
コルデリアが槍に触れる。
槍に光が宿る。
エンチャント完了だ。
……と、そのとき「きゅううううぅ」というネズミが鳴くような音が聞こえた。
「ごめんあそばせ」
コルデリアが恥ずかしげにおなかを押さえた。
やっぱりエンチャントをすると空腹になるんだな……。
「それじゃあ、私がおとりになってフレイムスピリットの攻撃を受けよう。その隙にトキヤくんは攻撃を頼む」
「わたくしもあの魔物を翻弄してみせますわ」
作戦は決まった。
俺たち三人は部屋に飛び込み、フレイムスピリットの前に躍り出た。
「フレイムスピリットよ、我々が相手だ!」
フレイムスピリットの眼球がミカさんを捉える。
その眼球から細い熱線が照射される。
機敏な反射神経で飛び退くミカさん。
熱線に焼かれた地面が黒く焦げた。
続けざまにフレイムスピリットが小さな炎の弾を投げてくる。それもミカさんは見事なステップで回避し、よけきれないものは剣で払いのけた。
「今度はわたくしが相手になりましてよ!」
ミカさんが息切れしたところでコルデリアが前に出る。
コルデリアは挑発するようにフレイムスピリットの前を8の字に飛ぶ。フレイムスピリットはぐるぐと眼球を動かしながら、羽虫を落とそうとするかのように熱線を短く連射した。コルデリアはそれを華麗にかわしていった。
ミカさんとコルデリアに攻撃が集中している今がチャンス。
俺はぐるりと回り込んでフレイムスピリットの背後をとる。
「てやああああああっ!」
そして光を宿した槍を炎のかたまりの中へと突き刺した。
手ごたえはなかった。
しかし、槍からほとばしる光の奔流がフレイムスピリットを呑み込み、濁流のごとき勢いでその火を吹き消してしまった。
炎を吹き消され、眼球だけになったフレイムスピリット。
力をすべて奪われてしまったのだろう。その眼球も地面に落下し、部屋の隅へと転がって壁にぶつかり、消滅した。
静寂が訪れる。
聞こえるのは、俺たち三人の荒い息遣いのみ。
「やりましたのねっ!」
コルデリアが祈るように両手を握って喜びを表現し、静寂を破った。
「どうやら勝利を得られたようだね」
ミカさんも剣を鞘にしまい、肩の力を抜いた。
緊張が解けた俺も自然と口元がゆるんだ。
さすがはエンチャントの力、といったところか。
そのためのチャンスを二人がつくってくれたのだから、俺一人の手柄では決してないが。
ゴトンッ。
なにかの落下音がして振り返る。
先ほどまでフレイムスピリットが漂っていた部屋の中央に宝箱が出現していた。