21-11
おりよく今いる場所は休憩するにはちょどよい広さで、溶岩からも離れていた。ダンジョン探索をいったん止めることに決め、俺とミカさんとコルデリアはその場に腰を下ろして休憩した。
力を抜いた途端、疲労がどっと押し寄せてくる。
洞窟内の熱気でとにかく暑い。
俺はひんやりとした壁にもたれてどうにか熱気から逃れていた。
「やっぱりエンチャントはおなかがすくのですわね」
コルデリアはストレージから木の実を取り出してかじっていた。
俺は干し肉を、ミカさんはハンカチで汗を拭きながらピザを食べている。ミカさんのピザは酒場で買ったのだろうか。
「ミカさんってピザが好きなんですか? いつも食べてる気が」
「いや、別にそういうわけではないさ。しいて言うならチーズは好物だね」
「チーズが好物……。大人ですね。やっぱりワインといっしょに食べたり?」
なんだかカッコイイ感じがしたので俺はそう言った。
それをミカさんは否定する。
「私はぜんぜん大人になれてないさ。年長者ならこういう休憩時間に率先して話題のひとつでも振るべきなのに、黙々とピザを食べている始末だからね」
「別に気にしてませんって。戦闘が終わってみんなクタクタなんですから」
とはいえ確かに、セレナとクラリーチェがいるときと比べて静かでさみしい。
ここは俺ががんばるべきか。
「ミカさん、コルデリア。俺が一つ、なぞなぞを出すんで考えてみてくれ」
「なぞなぞ……?」
「ですの?」
首をかしげる二人。
や、やっぱり唐突すぎたか……。
っていうか、なぞなぞってなんだよ俺! 出した話題がなぞなぞって小学生か!
と思いきや、
「なぞなぞか。うん、いいね。面白そうだ」
「トキヤさまの挑戦、受けて立ちますわ」
二人が俺のところへ近寄ってくる。
よ、よかった。二人とも乗り気だ……。
「それじゃあ問題。『動かすのはかんたんなのに、絶対に持ち上げられないもの』なーんだっ」
くらえ、俺の渾身の問題!
「動かすのはかんたんで――」
「絶対に持ち上げられないもの――」
考え込む二人。
あたりがしんと静まり返った。
溶岩がぐつぐつ煮える音だけが聞こえる。
二人とも長考している。
しばらく考える時間を二人に与えてからコルデリアに声をかけた。
「コルデリア、わかったか?」
「しょっ、少々お待ちくださいまし! 今、答えが思い浮かびそうですの! 本当ですのよっ」
コルデリアはわからないみたいだな。
俺はにやりとする。
そうそう、それでいいぞコルデリア。いっぱい悩んでくれないとなぞなぞの出しがいがないからな。
「ミカさんはどうですか?」
「ふむ……」
ミカさんもあごに手を添えて考えにふけっている。
「そうかっ」
はっと顔を上げる。
そして俺のほうを向いたミカさんはこう答えた。
「――『心』、かな」
……。
「……」
「その表情からすると正解のようだね」
「い、いえ、違います」
「なにっ」
俺は別の理由で呆けていた。
美青年と見まがう女性に真剣な顔で『心』と言われて胸がときめいてしまったのだ。
動かせるけど持ち上げられないものが『心』だと思ったミカさん……。なんてピュアなんだ。名前の件といい今の件といい……セレナとクラリーチェが彼女に惚れた理由がよくわかった。まさかこれが恋心……。
思いもよらぬ場面でミカさんの隠れた魅力を発見してしまった。
これがギャップ萌えってやつか。
「降参ですわ、トキヤさま。答えを教えてくださいまし」
「私もお手上げだよ」
「答えは『影』さ」
俺が答えを教えると二人は「なるほどー」と納得したのであった。
100点満点のリアクションありがとう。
「トキヤさま、次ですわ」
「へ? 次?」
「わたくし、こう見えて負けず嫌いですの。次のなぞなぞをお願いしますわ」
「私からもお願いするよ。ぜひともキミにリベンジしたい」
クイズ出題者冥利に尽きる。
そういうわけで休憩時間は俺のなぞなぞ大会となったのであった。