21-10
ミザル溶岩洞窟はその名のとおり、赤々とした溶岩の流れる洞窟だった。
溶岩が流れているだけあって暑い。いきなり真夏になった感じだ。
汗が額や頬をしたたる。
「お、恐ろしい場所ですわね……」
俺の背中にしがみついているコルデリア。
俺とミカさんとコルデリアが縦一列になって歩いている細い道は断崖絶壁になっていて、奈落の底で溶岩がぐつぐつと煮えている。足を滑らせれば最後、生きて戻ることはかなうまい――って、これはゲームだからデッドして拠点の街に復活するだけか。
「気をつけて歩くんだよ。この地面、結構もろいから」
先頭を務めるミカさんの言うとおり、俺たちの歩く地面はもろく、一歩踏み込んだところでパラリと一部が崩れて肝を冷やす場面が何度かあった。
こんなところで魔物と遭遇したら戦いどころじゃないな……。
俺は魔物と出会わないよう祈りながら細道を進んだ。
マップを表示したタブレットをときおり見ながら慎重に歩く。
「宝箱のアイコンはあるかい?」
ミカさんが振り向く。
「ないですね」
「そうか……。今更だが、この広いダンジョンをくまなく探索するのは骨が折れそうだ」
「名前を変更できる特殊なアイテムがそのへんに転がってるというなんてことはないでしょうから、ダンジョンの最後までいけば案外あっさり見つかるかもしれませんよ。まずはダンジョンの最深部を目指しましょう」
「なるほど。道理だね。やはりキミと共に来てよかった」
がけっぷちの細道を抜けると道が広くなった。
三人とも安堵する。
だが、安心したのもつかの間、マップに魔物を示す赤いアイコンが表示された。
キーキーと甲高い鳴き声が頭上から聞こえる。
見上げると、コウモリ型の魔物が5匹、洞窟の天井付近を飛んでいた。
「バンパイアバット。レベル25だ」
ミカさんが腰の剣を抜く。
「トキヤさま、わたくしの力を」
コルデリアが俺の槍に触れて力を送り込む。
槍が光を帯びる。
エンチャント完了だ。
「来るよ!」
バンパイアバットが一斉に急降下してきた。
槍を払い、それを迎えうつ。
1体を打ち落とすのに成功する。
ミカさんも1体、剣で叩き落とした。
残るは3体だ。
仲間をやられたバンパイアバットたちは俺たちの攻撃が届かない上空に逃げる。
「わたくしにおまかせあれ!」
コルデリアが背中の薄い羽を羽ばたかせて上昇し、バンパイアバットに接近して刺突剣による攻撃を浴びせた。
胴体を突き刺されたバンパイアバットは空中での制御を失い、溶岩の中へと落っこちた。
「まだまだいきますわよ!」
続けざまにコルデリアは華麗な剣さばきを披露し、残りの2体のバンパイアバットも容易くやっつけてしまった。バンパイアバットたちは墜落し、空中を羽ばたいているのは微笑みをたたえる妖精のお嬢さまだけになった。
さすがコルデリア。村で一番剣が得意なだけはある。
「こんなものですわ」
ふわりっ。
コルデリアがウェーブのかかったやわらかな髪をかき上げた。
「す、すごいねコルデリアちゃん……」
ミカさんは彼女の思いもよらぬ戦いぶりに目を見張っていた。ウロボロスとの戦いを知らないミカさんにとって彼女は好奇心旺盛な妖精のお嬢さまで、まさかここまで本格的に戦闘ができるだなんて思いもよらなかったのだろう。
レベルで表すらなら20から25くらいか。
エンチャントなしの純粋な戦闘力は俺やセレナよりもあるのは間違いなかった。
「それにしても――」
俺の前に降りてきたコルデリアがおなかをさする。
「おなかぺこぺこですわ」