21-9
翌日、宿屋を出た俺とミカさん、コルデリアは街の中央広場へと向かった。セレナとクラリーチェに見つからないように、彼女たちが先にチェックアウトしたのを見計らってこっそりと。
広場は今日もたくさんのプレイヤーがいた。広場は街の転移地点となっているためいつも人が絶えず、プレイヤーたちがこぞって冒険に出発する朝は特ににぎやかだ。皆、タブレットを操作して光の粒子となって消え、ダンジョンへと向かっていく。
「皆さま、冒険に旅立たれているのですね」
コルデリアはそのようすを珍しげに眺めていた。
ミカさんがカバンからタブレットを取り出す。
「私たちも出発しようか。コルデリアちゃん、転移の仕方はおぼえているかい?」
「もちろんですわ。おまかせくださいな」
俺とミカさんとコルデリアはタブレットを操作する。
目的地選択で『ミザル火山』にカーソルを合わせ、決定ボタンをタッチ。
途端、白い光が視界を覆う。
俺たちの姿は光の粒子となり、空へと飛んでいった。
白い光が収まって視界が明瞭になる。
俺たちはごつごつとした岩肌が露出した山のふもとに転送されていた。
「ミザル火山への転移成功ですわね」
そばにはミカさんとコルデリアもいた。
「山頂へと向かう道と洞窟への入り口がありますけれど、どちらに行けばよいのでしたっけ」
「洞窟のほうだね。掲示板の情報だと、この『ミザル溶岩洞窟』のどこかに目的のアイテムがあるらしい」
「タブレットに出てくるミカさまの本当のお名前を書き変えるためのアイテムですわね」
「そうさ。私はどうしてもこの『あ』という名前を変えたいんだ」
ミカさんが俺とコルデリアを見る。
「トキヤくん、コルデリアちゃん。どうか力を貸してほしい」
「もちろんですわ」
「リネームカード、必ず手に入れましょう」
俺たちの返事を聞いてミカさんはほっとした表情を見せた。
「ここから先は高レベルの魔物が徘徊している。じゅうぶんに気をつけてほしい」
ミザル溶岩洞窟はレベル30のミカさんが行くような高難易度ダンジョンだ。レベル15の俺なんて一撃でもダメージを受けたら即座にデッドするだろう。NPCのためレベルは定かではないが、コルデリアもおそらく同じはず。ミカさんの言うとおり、慎重にいかなくてはいけない。
「コルデリア、試しにここで『エンチャント』してみないか」
「そうですわね。わたくしがトキヤさまに力をお貸しするのは初めてですものね」
コルデリアが俺の槍に触れる。
そして眼を閉じて集中する。
すると俺の槍が光を帯びだした。
「トキヤさまの槍が光りましたわ!」
コルデリアが手を離す。
エンチャント成功だ。
これで俺もレベル30の魔物と渡り合える。
タブレットで自分のステータスを確認すると、攻撃力は1000ほど増加していた。
カンストしていない……?
もしかして、途中でコルデリアが手を離したからだろうか。
「コルデリア、おなかは減っていないか?」
「おなか、ですか? ……そういえば、朝食を食べたばかりですのに少々おなかが減ってきましたわね」
コルデリアがふしぎそうに自分の腹をさする。
「エンチャントをするとどうやら空腹になるらしい。それでエミリエルは腹ペコで動けなくなったことがあったんだ。だから俺の槍に力を込めるときはほどほどに頼む」
攻撃力1000もあれば通常の魔物なら一撃だ。9999になるまで力を込めるのは過剰だろう。
「力を込めるのを加減すればよろしいのですわね。わかりましたわ」
これで準備は整った。
俺たち三人はミザル溶岩洞窟へと踏み入った。