21-8
「トキヤにミカさん。……それにコルデリア? 珍しい組み合わせね」
セレナがそう言う。
「コルデリアに街を案内してたんだよ」
「そうですの。わたくし、人間の住む場所に興味がありまして」
俺のウソにうまいこと合わせてくれるコルデリア。
セレナは「へー、そうだったんだ」と信じている。
「エミリエルはいっしょじゃないのね」
「あの子は村でお留守番ですわ」
「そうなの? あの子の性格だと街に行きたがりそうなのに」
「エミリエルはジャンケンで負けて留守番になったんだよ」
「あははっ、そうだったんだ。ちょっとかわいそうねっ」
俺たちのテーブルについたセレナとクラリーチェは「おなかぺこぺこー」と腹をさすった。
「今日は楽しかったねー、セレナちゃん」
「ええ。思う存分ショッピングできたわ」
そうして俺たちは食事をしながら雑談に興じた。
セレナとクラリーチェは街で買ったものをストレージから逐一出して俺たちに見せてくれた。買ったものは服やアクセサリーといった、冒険には関係のないものばかりだった。ミカさんがクラリーチェの買った服を手にして「キミに似合いそうだね」と言うと、クラリーチェは「てへへー」と照れ顔になった。
「今度この服を着てミカさんに会いにいきますねっ」
「ああ。楽しみにしているよ」
「トキヤ。アタシの買った服はどう?」
「いいんじゃないか?」
「なーによー、その興味なさげマックスな褒めかたは」
俺の褒めかたが気に食わなかったらしい。
セレナは眉間にしわを寄せて目を細める。そして指先で俺の肩をつついてくる。
「トキヤってば、女の子に囲まれて調子に乗ってるんじゃないの?」
「乗ってないって」
「ならミカさんに女の子の褒めかたを習ってきなさい」
「はははっ。トキヤくん、すっかり尻に敷かれているね」
「お似合いのお二人ですわ」
ミカさんとコルデリアに茶化されてセレナは「ちょっ、そんなんじゃないし!」と頬を染めてぶんぶん首を振った。
「そっ、それよりもコルデリア。明日はどうするの? まだ街にいるの?」
「明日はミカさまと――」
そこでミカさんに目配せされたコルデリアが「あっ」と慌てて口を押える。
「明日はミカさまとトキヤさまといっしょに村に帰りますわ」
「へ? トキヤたちもついていくの? コルデリア、タブレット持ってるなら転移機能でアシロマの森まで一瞬で帰れるから護衛必要なくない?」
「そっ、それはですね……」
うろたえるコルデリア。
そこにミカさんが口をはさむ。
「あえて歩いて送ろうと思ったのさ。コルデリアちゃんは外の世界を知らないからね」
「あー、なるほど」
納得するセレナ。
「アタシとクラリーチェは明日『ハルベリア・デュエル』のカードを見にいく予定だったんだけど、トキヤたちについていこうかしら」
「残念だけどセレナちゃん、それはできないんだ。これはトキヤくんと私たちのデートなのだからね」
「デ、デート!?」
セレナがすっとんきょうな声を上げてテーブルを叩く。
皿のスープとコップの中身が波打ち、テーブルに腰かけていたコルデリアの尻が浮いた。
「女の子二人はべらせてデートとかトキヤ、やっぱ調子に乗ってるじゃない!」
「いや、それはだな……」
「言い訳なんか聞かないわよッ」
「まあまあセレナちゃん。わたしたちはカードを見にいこうよ。わたしも強いデッキ作りたいし」
腕組みして仁王立ちの格好で俺をにらみつけるセレナをクラリーチェがなだめた。
そして食事を終えた俺たちは酒場の前で解散となった。
リネームカードの件は隠し通せたが、セレナはあれからずっと不機嫌で口数が少なかった。
……と思いきや。
「トキヤ」
二人きりになるのを見計らったのか、ミカさんとクラリーチェ、コルデリアが先に宿へと向かってからセレナが俺を呼ぶ。
俺の手首をつかんでぐいっと自分のほうまで引き寄せてくる。
吐息がかかるほど密着する俺とセレナ。
「アンタとアタシ、一度は結婚しようとしたの、忘れないでよね?」
彼女はそう、小声でつぶやいた。
ぷいと目をそらしたセレナの頬はほのかに赤らんでいる。
「ああ、忘れるわけないさ」
「……ならよし」
上目遣いではにかむ彼女に、俺は一瞬どきっとした。