21-6
俺とミカさん、そして妖精のコルデリアの三人の冒険がはじまった。
行く先は『ミザル溶岩洞窟』。
拠点の街からずっと南下した場所にあるミザル火山がそこである。
転移機能を利用して拠点の街に帰ってきた俺たちは、さっそくミザル火山行きの乗合馬車に乗ったのであった。
「わたくし、街を見てまわりたかったですわ」
「すまないねコルデリアちゃん。あまり時間を使うと夜になってしまうから」
「ええ、承知していますわ。わたくし、聞き分けはよいほうですの」
「今度、エミリエルやフレイアも連れて街をまわろう」
「トキヤさまはおやさしいのですね」
馬車はゆっくりとした足取りで道を進んでいく。
延々と広がるなだらかな丘陵。点在する民家と、風に波打つ麦畑。
乗合馬車での旅は、良く言えばおだやかで、悪く言えば退屈だった。
コルデリアも最初こそ外の世界が珍しくて、建物が見えるたびに「あれはなんですの?」と指さして俺たちに尋ねていたが、今は座席に深くもたれてあくびをしている。それからやがて俺に身体を預けて寝入ってしまった。
「トキヤくんも寝るといい。到着したら私が起こそう」
ミカさんはストレージから取り出した本を読んでいた。
「それってどんな内容の本ですか?」
「物語だね。勇者が邪悪な竜を倒す旅ををする冒険譚さ」
「ミカさんってもしかして現実世界にいたころも本をよく読んでました?」
「ああ。読書が趣味だったからね。キミはどうだい?」
俺は書くほうが趣味です。
とは恥ずかしくて言えなかったので素直に首を縦に振った。
「なら、私の持ってきた本貸そう。他にもストレージに本はたくさんあるんだ」
俺はミカさんから本を借りて退屈な旅をしのいだ。
俺の借りた本も冒険の物語だった。
ミカさんはこういう本が趣味なのだろうか。
「ミカさんってラノベとか読みます?」
「ライトノベルかい? いや、読まないね。現実世界にいたころは純文学をよく読んでいたよ。大学も文系だったからね。今読んでいる本がどれも冒険物語なのは、普段はそういったジャンルを読んでいなくて興味を引かれたからだよ」
「純文学……。すごいですね」
「すごくはないさ。ライトノベルも文豪たちの書いた小説も等しく『本』だよ」
それから俺とミカさんは黙って本を読んで過ごした。
乗合馬車は延々と車輪を回し、ゆらゆらと揺れながら道を進んでいく。
途中、小さな村に停まって御者が馬を休ませてエサをやる間、俺たちは馬車の外で固くなった身体を伸ばした。
俺の前をふわふわ浮いていたコルデリアが大きなあくびをする。
「冒険って意外と退屈ですのね」
「火山についてからが本番だぞ。魔物も出るからな」
「魔物との戦いならおまかせあれ。剣には自信がありますの」
コルデリアは腰の剣を抜いて構えてみせた。
「剣もいいけど、コルデリアにはエンチャントを頼みたいんだ」
「エンチャント……。エミリエルがトキヤさまの槍に光を宿したあれですわね」
「いざというときは頼むぞ」
「おまかせくださいな」
休憩は終わり、俺とミカさん、コルデリアは再び乗合馬車に乗った。




