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 幻獣とはプレイヤーと敵対しない魔物である。基本的に幻獣は温厚で、プレイヤーのHPを回復してくれることさえあるくらいだ。

 俺はその幻獣と会話ができるのだ。

 ……クラリーチェはともかく、セレナはこれっぽっちも信じていないが。


「幻獣と会話できる、なんてスキル、聞いたことないわよ。仮にあったとしても、どうしてスキル欄に表示されてないのよ」

「それは……」


 俺は言い淀んだ。

 スキル欄に表示されていない。なぜかは俺にもわからない。


「じゃあじゃあ、試しにこの子の声を聞いてみて、トキヤくん」


 クラリーチェが助け舟を出してくれた。

 彼女は近くにいたオオカミ型の幻獣に「おいでー」と手招きする。

 オオカミ型の幻獣が近寄ってくる。

 俺はその幻獣の声に耳を傾けた。


「この幻獣はなんて言ってるの?」

「『肉をくれ』らしい」

「な、なによそれ……?」

「腹を空かせてるんだろ」


 沈黙する三人。


「と、とにかくトキヤはパーティーから除外! おとなしく街の宿屋で待ってなさい。『ハルベリア・オンライン』最強のフェンサーであるこのアタシがドラゴンをやっつけてきてあげるから」

「いつから最強になったんだ?」

「自称よ、自称。こういうの大事でしょ」


 セレナはこういう性格なのだ。幼馴染の俺はセレナの勝気な性格をよく知っていたし、一度決めたことはなにがあっても覆さないのもわかっていた。


「さーて、ドラゴン退治にいくわよ、クラリーチェ」

「あ、えと……はい。ごめんね、トキヤくん」

「気にしないでくれ。HPが0になってデッドしたら経験値80%没収だもんな」

「うん」


 わかっていた。

 この体たらくの俺がドラゴンに挑んだところで瞬殺され、経験値8割没収されて復活(リスポーン)地点に直行だということくらい。パーティーの人数が増えるとボスのHPに上昇補正がかかるため、役立たずがいるとかえって難易度が上がってしまうということも。

 それでも悔しかった。

 せめて幻獣と話せるのは信じてもらいたかった。幼馴染であるセレナには。

 俺の気持ちを知ってか知らずか、セレナが胸に手を当てて俺にウィンクする。


「アタシにまかせておきなさいっ」


 それがセレナの口癖みたいなものだった。

 俺たちは幼稚園のころからの幼馴染の関係で、年齢も同じ。ただ、セレナは俺より一か月早く誕生日が来るから、お姉さんぶることが多々あったのだ。

 で、実際にお姉さんぶってちゃんと姉としての役目を果たせたことがあるかというと……数えるほどしか思い出せない。ハチの巣にちょっかい出してひどい目にあったり、家に入ってきたトカゲが怖くて俺に泣きついてきたり……そういう思い出ばかりが頭によぎる。

 俺がドラゴン退治に役に立つかどうかはともかくとして、幼馴染として心配だ。


「トキヤがもっとレベルを上げて強くなったら、いっしょにボスバトルをしましょ。あっ、そうだわ! ドラゴンを倒して素材を手に入れることができたらトキヤの装備を整えてあげるっ。それでいいわよね?」

「……わかったよ。けど、無茶はするなよ」

「ふふっ。ドラゴンなんてアタシの敵じゃないわよ。ドラゴンの素材でつくる装備、楽しみに待ってなさいねっ」


 セレナは自信満々だった。

 セレナとクラリーチェがドラゴンのいる火山へと向かっていく。

 俺は二人を追いかけなかった。

 無理やり追いかけて、ソロで一緒に戦うことだってできるだろうが、そこまではしたくなかった。むなしくなるだけだろうから。

 オオカミ型幻獣が俺のそばに近寄ってくる。

 なぐさめるように身体をこすりつけてくる。

 そして幻獣が言う。


 ――肉くれ。


「もうちょっと気の利いたセリフをしゃべってくれ……」


 俺はタブレットを操作し、ストレージ――デジタル空間にアイテムを収納するボックス――から出した干し肉を幻獣にくれてやった。


 ――敵、きたぞ。


「はいはい。肉おかわりだな――って、なに!?」


 とっさに後ろを振り返る。

 俺の背後には岩で組まれた巨大な人形の魔物『ゴーレム』が立っていた。

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