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――むろん、お前たちの冒険を引き留めるつもりはない。お前たちは魔王を倒さねばらないのだからな。ただ、この集落をお前たちの帰る場所にしてもらいたいのだ。そうすれば皆もよろこぶだろう。
ドラゴニュートはそう言った。
俺は部屋の隅に目をやる。
そこにはセレナとクラリーチェが床に横になって静かに寝息を立てている。
タブレットを開く。
そこには『マイハウスの提供』というメッセージが表示されていた。
マイハウスの座標はこの集落。
メッセージには『承諾』と『却下』二つの選択肢がある。
そうか。これがこの一連のイベントの報酬なのか。
マイハウスとは、プレイヤー個人が持てるプライベートな空間である。宿屋の代わりにそこで寝泊まりできるのはもちろん、部屋を自由にコーディネートする楽しみもある。他のプレイヤーを招待して部屋を見せることもできる。
そしてそのマイハウスなのだが、普通に手に入れるには莫大なゴールドを要求される。普通のプレイヤーでは到底購入できないのだ。マイハウスを持っているのは一部の大手ギルドのギルドマスターくらいである。
それをこのイベントをクリアした俺たちは無料で手に入れられるのだ。場所は拠点の街から遠く離れた僻地で利便性は悪いが、それでも破格の報酬である。
――邪悪な竜を討った勇者よ。我らと共に暮らしてくれ。
俺は悩んだ。
短い時間だったが、かなり悩んだ。
悩んだ末、俺はタブレットの『却下』をタッチした。
――そうか。やはり無理か。
「すまないドラゴニュート。気持ちはうれしいんだが、俺たちには帰る場所があるんだ」
俺の脳裏によぎったのだ。道具屋のココ、カードゲームギルドのルンとアサギさん、職人街の細工師マルガレーテさん、本物の勇者ミカさん――今まで交友のあった人々の姿が。
この集落を新たな拠点としたらそんな人たちとの交流も疎遠になってしまう。
だから俺は破格の報酬より、今まで紡いできたきずなのほうを選んだのだった。
セレナとクラリーチェもきっと俺と同じ選択をしたはず。
――ならば代わりにこれを受け取ってもらいたい。
ドラゴニュートが部屋から出ていく。
そして戻ってきたときには、彼は一本の槍を手にしていた。
柄に美しい意匠が施された槍だった。
――我らの宝である槍だ。お前たち勇者が持つにふさわしいだろう。
マイハウスを却下したらこちらがもらえる選択式のイベントだったのか。
「ありがとう。ドラゴニュ――」
感謝の言葉を口にした途中で俺はふと気づいた。
俺、この槍を装備できるのか……?
気になってタブレットでその槍の詳細を確かめる。
――ドラグーンスピア。装備可能レベル15以上。
レベルはギリギリ要求値に達していた。
しかし、他の腕力や体力といったステータスの要求値が全く足りなかった。普通のプレイヤーなら大したことのない要求値であったが、俺はレベル1から1ポイントたりともステータスが上がっていないから要求値を満たしていなかった。
というわけで俺はこの『ドラグーンスピア』を装備できないのであった。
――この槍で魔王と戦ってくれ。
「あ、ありがとう……」
俺の胸に罪悪感が押し寄せてきた。
これはしばらくストレージの中に入れっぱなしになるだろうな……。
いっそのことミカさんに譲渡しようか……。
……いや、それも違う。これを渡すにふさわしいのは『あの人』だ。




