毎夜、手術中のランプが点灯しているオペ室
私はふと目を醒ました。
カッと照らすライトが眩しかったせいだろう。
体が動かない。
金縛りかとバカな事を考えたが、こうなる前に説明された事を思い出した。
「術中覚醒?」
「ええ。極まれに手術中に起きちゃう人がいるんですよ」
「そんな! 防げないんですか?」
「発生は1%以下ですからそんなに心配いりませんよ。この説明も念の為です」
ああ、私は運の悪いことに1%以下の不幸に見舞われたらしい。
痛覚はきちんと遮断され、痛みを感じないのが救いか。
動けない私の耳に医者の声が聞こえる。
「しっかし、毎日、毎晩、手術、手術。手術中のランプが消える暇もないですね」
「そうだな。仕事があるだけありがたいと世間では言うが、医者は違うよな。少しは休みたいよ」
「先生、今何時間です?」
「俺? えーと、二十八かな。一昨日の二十二時起きだ」
「じゃあ、自分の勝ちっすね。三十時間目です」
「いい加減手術の前ぐらいはちょっと休みたいね」
「でも座ると寝ちゃいますよ」
「ああ、違いない。正直喋ってないと立ったまま寝そうだ」
アッハッハと私の腹をまさぐりながら、医者二人が乾いた笑いを漏らしていた。
「あ」
「おっと、やっちゃいましたか」
何を? 何をやった?
「えーと。ダメだ。出てこない。押さえるやつくれ」
「ペアンですよ」
「ここ押さえて」
「はい」
「アレ? 切るやつどこいった?」
「え、メスはヤバイですよ。探しましょう」
おい、しっかりしてくれ。簡単な手術って言ってたろ。
「あった、あった。変な所切れてない?」
「たぶん、大丈夫でしょう」
たぶんって! もっとよく確認しろ!
「えーと。どこまでやった?」
「どこまででしたっけ」
「ちょっと休むか」
「やっちゃった所、血ぃ止めてからにしましょうよ」
「俺、無理。眠い。お前できる?」
「やっときますよ」
「頼むわ」
「自分も休みたいね。あれ? もしかして起きてる? やべっ」
若い医者は手術台の横の機械をいじりだした。
私はまた深い眠りに落ちていく。
「術後せん妄?」
「ええ。麻酔から醒めるときに幻を見ることはありますよ」
「すごいリアルでしたが?」
「そうですね。現実と間違える方もよくいます」
この病院の手術中のランプは消える事がない。
誰かが大きなミスをする時、やっとランプは休みを得るのだろう。
医者と一緒に。
お読み頂き嬉しいです。
作者に医療やお医者さんの勤務知識はありません。
軽くネットで検索しただけです。
このお話はフィクションですがあまりにも現実とかけ離れていた時はご一報下さい。訂正、削除致します。