99.おはようございます
一人で朝食の準備をしていると段々と辺りが明るくなってくる。
「そろそろ良い時間だな」
カロンはまずスタンの天幕へ行く。
中には入らず外から声を掛ける。
「おはよございます。朝食の準備が出来ております」
声を掛けてから少しするとスタンがのそのそと天幕から這出た。
「ふぁ~…おはよう」
空には雲一つ無く、新鮮で心地の良い風が優しく身体に当たる。
朝日を浴びてあくびをしながら伸びをするスタンは朝食を一目みて少し驚く。
「って…もしかしなくてももう朝ぁ?…」
「もう少し早く起こした方が良いですか?」
夜明け前に何か習慣的なものがあるのかと思い尋ねる。
「いんやぁ…ずっと見張ってたってことでしょぉ?」
自分はぐっすり眠っていたのに関わらず、この騎士は全く寝ずに見張ってくれていたとか申し訳なさすぎるのである。
「いえ、お気になさらず。…私は姫様を起こして参ります」
「あぁ…うん、わかったよ」
普段ここまで丁寧に扱われることがないスタンはどうもむずがゆい気持ちになってしまう。
…騎士に今度なにかしてやろうと心に決めたスタンであった。
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カロンはサリンの天幕の前に立ち、深呼吸してから声を掛ける。
「姫様、おはようございます」
「おはよう、カロン」
スタンとは違い声を掛けてすぐに天幕が開かれサリンが出てくる。
「その…今日はどうかしら」
カロンは何の事かを一瞬で容姿の事だろうと推測し、良く観察した。
今日は空色をベースに所々白く不思議な模様の入ったドレスを着ている。
そして今日は髪形も違い、いつもならば縦ロールが多いところ今日はロングヘア―だ、前髪はいつも通り綺麗に切りそろえられている。
ここでカロンは少し悩む、いつも通りドレスをほめるべきなのか…それとも珍しく髪型まで変えているのでそこをほめるべきか…
「とても可愛らしく思います」
悩みに悩んだ結果、カロンは一番しっくりくる言葉を選んだ。
こういういい方ならばドレスだけでなく髪型やサリン自体をほめる事が出来ると思ったからだ。
「なら良かったですわ」
結果は…セーフだったようだ。
カロンはサリンがニッと微笑んだのを確認してホッとした。
「朝食の用意が出来ました。どうぞこちらへ」
カロンは食卓へとサリンをエスコートする。
「今日は一緒に頂きませんこと?」
「…承知致しました」
カロンは王族と同じ食卓で食事して良いのか悩んだが、そういえば初めて会ったころに一緒に食事していた事を思い出し、承諾する。
二人が食卓に着くとスタンは席に着いたまま、ぼーっとグラムレイン跡地を見つめていた。
「あッ…おはようございますサリン様!」
「おはよう、スタン」
スタンはサリンの服装が変わっている事に気がつき少々興奮気味に話す。
「あ…あ…ああアぁぁッ~!また着替えていらっしゃるうぅぅっ!魔術で服も含めて全身洗浄できるのにあえて毎日お着換えするという余りにもオシャレ過ぎる習慣はあのころから未だに続けていらっしゃるのですねえぇぇ!!?」
「え、ええ…続けていますわ。毎日同じ服を着ていると飽きてしまいますもの」
サリンは若干引き気味に答えた。
「まぁ…魔術で排泄すらしなくて済む時代だからと言って毎日同じ服装というのも…私も定期的に着替えてますからね」
「ワタシはもう数年間同じ服きてますよぉ!?あ、でもちゃんと毎日魔術で洗浄と修復をしているので全く傷んでないんですよぉ…!」
そんな当たり前の事言われても…とは言わない紳士なカロンであった。
「そういえば…もうしばらく湯に浸かっていませんわね…次の街に温泉でもあれば良いのですが…」
やっと落ち着いてきたスタンは温泉という言葉に反応して話す。
「確かに洗浄魔術で十分とはいえ、たまにはのんびりと…湯に浸かりたくなりますねぇ」
「では次の街は温泉のある街にしましょう、ここからですと…ラマルラですかね」
カロンは地図を見ずに提案する。
「いいですわね、ラマルラへは一度行ってみたかったのですわ」
サリンがそう決めればこの一行に否定するものは誰もおらず、すんなりと次の目的地は決定した。
「じゃぁ朝食を食べてすぐ出発しますかぁ」
一同は朝の心地よい風になでられながら朝食を取った。