96.一人で
「これからどうしよぉ…」
スタンは両足を抱いてため息をついていた。
グラムレインが完全消滅した後、サリン一行は丘の上で休憩を取っていた。
まだ夜は明けておらず、辺りは暗い為移動するのは危険だと判断したからだ。
カロンがきびきびと働き、天幕と焚火を用意した為そこまで寒くは無い。
「王国に帰るか…それとも近くの街で暮らすかぁ…」
木の枝を焚火にくべながら考える。
「私達と共に王国へ帰っても良くってよ?」
天幕の中からサリンが出てくる。
「い…一緒に行っても良いのですかぁ?」
恐る恐るといった様子でスタンは尋ねた。
「もちろんですわ。断る理由がありませんもの」
サリンは優しく微笑む。
「ありがとうございますぅ!…でも」
スタンはカロンを見る。
カロンはテントを設営した後、焚火を素早く用意してさらに料理まで始めていた。
「私はあそこまで万能じゃないですよぉ…?」
スタンは若干引きながら話す。
「気にしなくて良いですわ。多分…彼程尽くしてくれる人はこの世に存在しませんもの」
いつもと違う微笑みを浮かべながら話すサリンの言葉を聞いてスタンは少し安心した。
普段はどうか知らないが、もしあの重装騎士と同じかそれ以上に働けと言われればきっと過労死していただろうから。
(…いや、私…サリン様に尽くして死ねるのなら本望じゃねぇ…?)
「ありがとうございますぅ。なるべくお役に立てるように努力ぅします!」
多分だがサリンと知り合ったのはカロンよりスタンの方が先だ。
新参者に負けるわけにはいかないとスタンはサリンの役に立つことを誓った。
「お二人方、夕食のご用意が出来ました」
カロンの作った物は調理師が作るものに比べれば劣るが、それでも現在の状況を考えれば十分すぎる料理だった。
「ありがとう」
「あぁ…私の分も作ってくれたのかぁ、ありがとう」
まさか自分の分も作ってくれていたとは思っていなかったスタンは少しカロンという男を理解し始めた。
先程カロンが岩を真っ二つにして作ったテーブルにはテーブルクロスがかけられており、その上に大量の料理が並べられている。
使われている食器はとても美しいもので、これはサリン様の用意したものだとスタンは察した。
「私は見張っておりますのでごゆっくりどうぞ」
「え…君はぁ…?」
「後で一人で済ませますのでお気になさらず」
カロンは一礼すると後ろを向いて直剣と盾を携えたまま置物のように動かなくなってしまった。
「気を使ってくださってますのよ、さぁ頂きましょう?」
「ぇ…とわかりました。頂きますぅ」
その日の夕食は消えたグラムレインがあった場所に残る青白く発光している残留魔力を眺めながらの食事となった。
////////////////////////////////////////
「すぴー…すぷ…」
食事を終えたあとスタンは疲れからすんなりと眠ってしまった。
二人が食事を終え、カロンは一人で食事を取ろうとしたが…
「…」
「…どうか…なさいましたか?」
サリンにじっと見つめられていた。
「…姫様?」
「一人で食事するのは…思っているより心を蝕みますわ」
サリンは一人で食事を済ませようとしていたカロンの近くに座り、特に何かを話すわけでもなく二人きりの時間を過ごした。