94.あそこまで登ったのかぁ
「はぁ………はぁぁ…」
ワタシはイレスに雷を落とした後、すぐに飛翔魔術を行使して地面へ無事に着地していた。
「あ…ガガ…グ……」
イレスは雷と落下の衝撃でべちゃべちゃになって地面に薄く広がっている。
その黒い水たまりの中心には若干原形をとどめている肉塊のようなものがプルプルと痙攣していた。
「ふぅ…一軒落着…かねぇ」
地面に座り込んで塔を見上げると先程ワタシが開けた大穴から新人君が手を振っている。
「ありゃ、追いかけてあそこまで登ったのかぁ」
一部黒い液状になって石畳の隙間に染み込み始めているイレスを一瞥する。
「すこぉし遅かったけどねぇ」
「遅くなってごめんなさいね」
突然背後から声をかけられる。
「ヒェェッ!」
驚いて飛び上がり、恐る恐る後ろに振り返るとそこには最推しのサリン様がお姫様抱っこされていた。
「アッ!?屈強な重装騎士に抱きかかえられて小さくなってるサリン様麗しッ!アッ…アッ…やばい語彙力がやばい…むり…」
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「え…いきなりなんですの…」
サリンは知り合いが突然おかしくなり少しだけ動揺した。
「あっいや…なんでもないですぅ、そんな事よりまだこんな危険なところにいたのですかぁ?」
「…貴女を安全圏まで転移させるためですわ」
スタンはうれしさのあまり叫びそうになるが…なんとかこらえた。
「ワタシなんかの為にぃ…?感謝感激ですよぉ…ウッ涙出てきた…」
スタンは白衣の袖で顔をぐしぐしと拭った。
「それにしても…乳母に抱き上げられるのも嫌がっていたサリン様が…」
スタンは”噂で聞いただけだけど”とは言わずにサリンの反応を待つ。
「ええ…そうですわね。戦闘で疲れているのも事実だけれど、何より…こうされるのは中々悪くないですわ」
サリンは抱き上げられながらいつも通りの澄ました顔でさらっと言った。
「えぇ…なにこれぇ…私何を見せられてるだぁ…?いや!そうそう!!イレス!殺しちゃったんですけどこれでもう爆発の危険性はありませんよね!?」
「いいえ。早く逃げますわよ」
スタンが理由を尋ねようと口を開いた瞬間。
ベリベリ
イレスの方から、何かがはがれるような音がした。