93.何があろうとも
「なるほど…私がいない間にそんな事があったのですね」
サリンはカロンに一連の騒動を話した。
もちろんイレスという少年が広範囲人型消却爆弾で人工太陽と接触するとこの街が消し飛ぶこともだ。
「それにしても本当に助けに駆けつけて下さるなんて思いもしませんでしたわ…」
「今の私に姫様以上に優先すべきことはありません。何があろうとも姫様を無事に王国までお守りします」
サリンはとっさにドレスの袖で顔を隠して話す。
「カロン、貴方は思ったより…頼りに…なりますわね」
「そういっていただけると、とても光栄です」
そんな話をしていると遠くで爆発音が聞こえる。
とっさにカロンが爆発音がした方向からサリンをかばうが、地響きがしただけで魔学研究所が崩れたりはしなかった。
「今のは塔の方からですね…姫様、そろそろ逃げたほうが良いかもしれません」
サリンはドレスから埃を払いながら話す。
「爆発したらわたくしの転移魔術で逃げますわ…だから…わたくしから離れないでくださいまし」
「承知いたしました」
サリンは塔の方へ歩き出し、カロンも追従する。
「わたくしの知り合いが塔で化け物を足止めしていますわ、間に合うかわかりませんが一応助けに行きますわよ」
「知り合いですか、承知いたしました。それと…失礼します」
「ひゃん!?」
カロンはサリンを横向きに抱き上げる。
「先程の戦闘でお疲れでしょう。それにこれならいざという時に姫様を守りやすいので」
「そそそうですわね、転移魔術も触れていないと連れていけませんし……こ、効率的ですわね」
カロンは盾でサリンを包むようにしてまた歩き始める。
「はい。では…姫様、行きましょう」
サリンはいつも通り澄ました顔をしていたが耳は真っ赤になっていた。
もちろんカロンはそのことに気がついていたが、気を使い何も言わない事にした。
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「はぁ…ひぃぃ…アイツマジで…ひぃぃぃ…」
その頃、スタンは必死に円形階段をのぼりながらイレスに電撃魔術を叩き込んでいた。
「ぜぇ…はぁぁぁ…階段の守りが固いからって…塔の壁這い上がって行くかぁ普通ぅ…!?」
どちらにしろ頂上までたどり着かれれば自分もろともこの街は終わりなので塔の内側から電撃魔術をどんどん打ち込む。
イレスが壁を上ると強力な魔力により壁が変質して青白く発光するのでどこにいるのかは丸わかりだ。
塔はどんどんぼろぼろになっていくがイレスを止めるにはこうするしかない。
「ふぅぅ!ちょっとは休憩しろよぉぉ…!もう疲れたぁ!じぬぅぅ!」
文句を言いつつも円形階段を全力で登りながら電撃魔術を叩き込む。
…なんだかイライラしてきた。
「あああぁぁ!もう知らんからねぇぇッ!!ふんぬ!!」
残った魔力の半分を消費し、強力な電撃魔術を行使する。
ボガァンッ
イレスが這い上がっていた壁は内側から大爆発し、イレスは塔から放り出された。
「アアァ…カレン…カレン…!」
(身体が痛みと痺れでうまく動かせない)
(でも、ここであきらめるわけにはいかないんだ)
(カレンへと続く塔へ手を伸ばすんだ!)
「アガグウググ!」
イレスの伸ばした両手はメキメキと音を立てながら伸びて再び塔の外壁を掴もうとする。
「わたしにもういちどのぼらせるきかあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?!?!?!」
先程開けた穴から身体に電気をまとわせたスタンが白衣をなびかせ飛び出す。
落下しながらイレスに威力を限界まで高めた電撃魔術を行使する。
直後、凄まじい閃光と共に雷鳴が轟いた。