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騎士と狂姫は歩く  作者: 御味 九図男
第3章:光と闇の双子
92/226

92.あの少年はただ…!



「フッ!」



カィンッ



 カーンは先に直剣での突きを繰り出すが、見るからに斬ることも刺すこともできないような鉄の支柱でさばかれる。



「…」



 サリンは構えを崩さずカーンの攻撃を待つ。



「確かに素晴らしい技量をお持ちですね、ですがヘイセウ様の仇はここで取らせて頂きますよ」



 カーンは素早く、間を開けずに斬撃を繰り出す。


 サリンはそれらを全てさばき続ける。



「…!」


ガンッ


「グッ…」



 サリンはさばき続けていた斬撃を突然弾き返して首にカウンターを入れる…が鉄の支柱は刺さりもせずに鎧に弾かれる。



「ふぅ…本当に剣術がお上手ですね、ですがそれでは私を倒せませんよ」



「本当にそう思いますの?」



 サリンは薄く笑いながらカーンに問う。



「時間稼ぎをしているのなら無駄ですよ、誰かが来ても騎士である私を倒すことは困難ですから」



「あら、凄い自信ですわね」



 カーンは構え直す。



「事実です。たとえ騎士…カロンが来ても…いや、重騎士の移動速度じゃ間に合いませんね。先に私があなたを殺します」



「間に合うかしら?」



「今から試すところですよ、ハァッ!!」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 サリンはカーンの斬撃と突きを全てさばき続けた。



「ふ…は…しぶといですわね」



 だが…流石に身体を鍛えて続けているカーンにスタミナで劣っている。


 少しづつ疲れが蓄積して時々斬撃をさばききれず大きく後方へ身を翻して斬撃を躱し距離を取って追撃をしにくくしてやっと耐えている状況だ。



「流石にお疲れのようですね。あの世でヘイセウ様に謝罪してください」



「…そういえば、あの化け物が何者なのか貴女は知っていまして?」



「理由や姿は関係ありません。あの少年は大切な人に逢いたいだけなんですからッ!」



 カーンは自分に似た境遇の少年を何度も化け物と呼ぶサリンに強い怒りが沸いた。


 その強い怒りが後押ししたのか、それとも今は亡きヘイセウへの思いの力なのか、鎧に魔力を回さずに一瞬で距離を詰め、サリンの支柱を直剣で弾き飛ばした。



「フフッアッハッハッハッ…!!あの化け物の正体を知らずに塔へ行かせた!?フフッ…ああ!…本当に面白いですわね」


 

 まるで狂ったように笑うサリンにカーンは怒りを忘れ少し後ずさる。



「正体…?なんの事ですか、あの少年はただ!」


「バ ク ダ ン でしてよ!あの化け物が双子の片割れ、たしかカレンだったかしら?アレと出会えば最後!この街の罪なき住人は!みーーーーんな死にますのよ!!アッハッハッハッ…フフッ」



 その紛れもない事実にカーンは愕然とした。



「爆弾…あの少年が…?」



「だから、あの化け物を止めようとしたわたくしを邪魔する貴女は!人殺しですわねっ!?アハハハハハッ!!ヘイセウもまさか自分の騎士が大量殺戮者になるとは思ってもみなかったでしょうね!」



 サリンはひとしきり笑ったあと目じりに溜まった涙を人差し指で拭う。



「黙れ…ヘイセウ様を侮辱するな…!」



「侮辱したのは貴女でしょう?ヘイセウは方法こそ残念でしたが善良な意志の持ち主でしたもの」



 カーンは直剣を斜め上段に構えた。


 サリンは何も抵抗をしようとしない。



「まずはお前を殺す。そのあと少年を止める」



 カーンは鎧に魔力を流し込み直剣を本気でサリンの首めがけて振り下ろす。



「タイムリミット、ですわね」



 直剣は…






 サリンの首にあと少しで届くというところで止まっていた。




「お前、今何をしようとしていた」


「カ…ロン!?何故ここに…!?」



 カーンの両手は直剣のグリップを握った上からカロンに片手で掴まれており、びくともしない。



「裏切者が」



「カロンッ!こいつは!お前も騙し



ゴシャッ



 カロンはもう片方の手でカーンの頭を掴み、地面にたたきつける。


 カーンの頭は完全につぶれ、兜の隙間から肉が飛び出した。



「残念でしたわね、カーン。貴女と違ってカロンはわたくしを裏切らなかったようですわ」


 

 カロンはサリンの目の前に跪いた。



「姫様、遅れてすみません。私がもう少し早く来ていれば…」



 カロンは心底悔しそうにする。


 

「いいえ、カロン。貴方はまた最善を尽くしてくれたのでしょう?」



 サリンはカロンが暗い夜道の中一切休憩せずにモンスターと闘いながらも駆けつけてくれたことを察していた。


 実際、カロンは本当に休憩もせずに最短でこの街にたどり着いていた。



「それは当たり前の事です。そんなことより姫様につらい思いをさせてしまった事の方が私は…!」



 そのサリンを思う気持ちに触れ、サリンは何とも言えないもどかしい気持ちを味わった。


 そしてサリンはカロンの傷だらけになっている鎧を撫でて、言葉を紡ぐ。



「…とても嬉しいですわ。でもね…貴方はもう少し自分を大切にしてくださいまし」



 その言葉は王族として生まれたサリンの噓にまみれた言葉ではなく、彼女の心からの純粋な願いだった。



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