90.は、はぁい
「あっぶねぇ~~あぁと少しでバレるとこだぁたね」
なんとかあの騎士とイレス…だったか?にばれずに済んだ。
「まさか騎士を連れてもどってぇくるとはねぇ」
とっさに出たデタラメで騙せた…?けど、もし"人工太陽がカレン自身"だとばれていたら…
「サリン様に申し訳がつかないからねぇ」
ワタシは崇高なるお方…サリン・シャンカ・バルトルウス・センス様を思い浮かべる。
あのお方は本当に素晴らしいお方だ。
いまこの街の人工太陽は私が作り出したという事になっているけども、本当はサリン様の知恵によるものだ。
ワタシがまだ王国勤めだった頃、たまたまサリン様の書いたレポートを読む機会があった。
そのレポートには要約すると人工的に強い光を作り出し、さらに長期間に渡り維持できるという物を作り出す方法だったのだ。
サリン様はまだ完成形ではないとおっしゃっていたが、この街に左官されてから試す機会があったので実際に実験してみたところ本当にできてしまったわけだ。
そしてもちろん3日後にある街の集会でこの太陽を考案したのはサリン様なのだと発表するつもりだ。
「へへ…きっとみんなサリン様こそ3姉妹の中で一番優れていると理解するだろうねぇ!」
ちなみにワタシはもちろん、サリン様推しである。
「あら、うれしいですわね。」
「へ…?」
こここここここの声は…
「お久しぶり…ですわね?スタン・ルングメル」
「ささササリンしゃまぁ!?」
いつの間に真後ろに?だとか、この部屋は完全に密室だったのに。とかはどうでもいい。
そんな事より最推しと二人きりだなんて…光栄すぎる…!
「おおおおせ、お世話になっておりますぅ!こうちゃ!紅茶をご用意致しますのでしばしお待ちをッッ!」
普段では出せないスピードで紅茶を入れるべく部屋を退出する。
「…行ってしまわれましたわ」
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「で…このスタンめにどういったご用件でしたでしょうか…?」
急いで紅茶を入れ戻ってくるとどこから出したのか、お茶菓子がテーブルに並べられており、シンプルでかわい気のない部屋が若干かわいらしくなっていた。
そして今はお茶会中である。
「この街に寄ってから、あなた達を少し観察していましたの」
「は、はぁい」
サリン様はワタシが淹れた紅茶を一口飲まれる。
「貴女が実験に使った双子…だったかしら?…あの双子、特に…闇の子はそろそろ限界ですわ」
闇の子…イレスの事だろう。
「サリン様の人工太陽レポートに書かれていた通りの事になるとすると…暴走、モンスター化…ですねぇ?」
サリン様は目を丸くした。
「人工太陽…なんのことですの?」
あ…そういえばサリン様のレポートには人工太陽とは一言も書かれていなかったのだった。
「あ…すぃいません。呼称が無いと不便だったので私が勝手に名づけましたぁ」
サリン様は静かに紅茶の入ったカップを置くと話を続けられた。
「そういえば私が見せたレポートは未完成でしたわね。一応アレにはすでに名称がありますの」
「すぐに改名いたしますぅ!…ちなみになんと呼べば…?」
サリン様は微笑まれる。
「広範囲人型消却爆弾ですわ」
「…へ?」
消却…爆弾…?
あれは人々を明るく照らす太陽のように明るい希望だったのでは…?
「あれが起爆すると……まぁ王国の主要都市程度なら一瞬で消し去る事が出来ますわ」
サリン様は淡々と話を続ける。
「そしてそれを作りだせる貴方は貴重ですのよ?だから忠告しにきましたの」
「さ、サリン様…起爆方法…は……いいえ…どうすれば起爆をとめられるのですか?」
サリン様は紅茶を一口飲まれるとワタシの問いに答えた。
「光の子と闇の子の逢引を阻止すれば良いですわ」
直後。
正門の方から凄まじい爆発音が聞こえた。
「まさか…」
「少しくらいは時間を稼いで差し上げますからさっさと逃げる事をお勧め致しますわ」
それだけ言い残すとサリン様はお茶会に使った道具を全てその場に残したまま消えてしまった。
「止めないと…止めないと…」
どうやって阻止するかを一瞬で考える。
コンコンコン
そして行動に移そうとした瞬間ドアがノックされる。
そういえば鍵がかかってるから外から開けられないんだった。
カチャ キィ…
開錠してドアを開ける。
「スタンさん!侵入者です!避難してください!」
最近入って来た新人の子だ。
おそらく先輩たちは侵入者…イレスの足止めしているんだろう。
「そうだねぇ、取り合えずとにかく侵入者を迎え撃つよ。逃げる暇はないからねぇ」
止めないと…止めなければ…全員死ぬ。
「王国魔術学校の卒業生をなめてもらっちゃ困る…からねぇ…ふふ、ふふふふふ」