88.どうぞ座って頂いて
「はいぃどうぞ座って頂いて~」
「失礼する」
カーンさんはそういうと兜を脱いでから面談室のような部屋の長椅子に座った。
僕もカーンさんに続いて横に座る。
「はいぃ、で。どんな用件でしたぁ~??」
「とぼけるな、人体実験の件だろう」
スタンはふるふる震えながらにやにやしている。
…気持ち悪い人だ。
「なんのことだかぁ~?わかるけどきっと勘違いしてるよねぇ」
「どういうことだ。」
いまさらどんな言い訳をするんだろうか…
「私は魔人病の子供を救っただけなんだよなぁ」
「…え?」
…どういう事?僕を救った…?
「…説明してもらおうか」
スタンはやれやれといった様子で話を続ける。
「だからぁ、その子は魔人病ってぇいう死亡率マックスな病気だったんだよぉ」
僕は…病気だったのか?
「魔人病…それは知っているが、あの病にかかれば最後、必ず人として生きる事はできないといわれる病気だったはずだが」
カーンさんは僕の事をじっと見つめる。
「こんな姿になっていても理性が残っているのが…お前の実験の成果…という事か?」
「いやぁ人聞き悪すぎるでしょぉ。治療って言ってぇよぉ」
それじゃあ…僕はこの人に救われたのか…
なんだろう…これまでずっとこの人の事を憎んでいたせいか、素直にお礼が言えない。
「そうだったのか、先程は本当にすまなかった。この子を救ってくれてありがとう」
カーンさんはさっきまでの怖い雰囲気をどこかに追い払って優しい笑顔になっていた。
「その…ありがとうございます」
僕もなんとかお礼を言った。
「ぷふ…ふふふははふふ」
スタンは突然くすくす笑い始める。
気持ちの悪い笑い方だと思う。
「…なんだ?そんなにおかしいか?」
「ふふはっはぁっはぁっふふふあはは」
「な、なんですか…」
突然大きな声で笑われると心臓がぎゅってするからやめてほしい。
「ふふは…いいい、いやね?感謝されたらうれしくなって」
「………」
カーンさんがなんかひきつった顔をしてる…たぶん僕と同じことを思ったんだろうなぁ…
笑い方気持ちわるって…
「因みに…記憶を失うかも知れないっていうのはそうなる前の君に伝えてあるからねぇ」
「そうだったんですか…」
本当に悪い人じゃなかったんだ…
「あ…そういえば僕ともう一人いたとおもうんですが、会わせてくれませんか?」
僕が約束した…あの子に、会いたい。
「もう一人ぃ…?あっ…それはダメ。絶対ダメ」
スタン…さんは汗をだらだらと流し始める。
様子がおかしい。
「まさか…病が治らずに死んでしまった…とか?」
「いや…うーん…生きてる?んだけどぉとにかくダメっ!ダメだめダメ」
…なぜ?
まさかもう魔人病っていう病気でおかしくなってしまった…とか?
「とにかく絶対ぃダメだから!」