86.これが事実ならば
「…って感じかな…」
たぶん血の流れていない僕でも聞いているだけで血の気が引くような厳しい訓練の説明をじっくりしてもらった…。
「騎士様にはあこがれてましたけど…その話を聞いてると…その、かわいそうだなって思います…」
聞いた話の一つにあった、ひたすら攻撃魔術に耐え続ける訓練って一歩間違えれば死んでしまうのではないだろうか…?
「なかなか厳しいだろう?私は軽装だからこれでもまだマシなんだよ」
「この厳しい訓練でまだマシ…?それ下手したら死んじゃいませんか?」
カーンさんは淡々と話を続ける。
「騎士の資格を得る前に死亡する訓練生は毎年全体の4割いるよ」
…本当に訓練で死んでしまう人がいるんだ…そこまでして騎士になる必要は本当にあるんだろうか?
「えっと…すいません。変な事を聞いてしまって」
「いや、気にしなくていい。訓練中に命を落とした者たちもそれを覚悟の上だったんだから」
カーンさんはどこか辛そうだ、きっと訓練中に知り合いが死んでしまったりしたんだろう。
つらいことを聞いてしまった…
「着いたよ、あそこが受付だ」
カーンさんはある一か所を指さす。
どうやらすっかり話し込んでいた間に目的地についたらしい。
「…緊張します…もしかすると問答無用で拘束されたりして…」
この身体になってからのつらい日々が思い出される。
…二度とあんな目に合うのはご免だ。
「心配しなくても大丈夫だよ、私が居る」
「心強いです。…カーンさん、よろしくお願いします」
必ず記憶を取り戻して故郷に帰ると決意して受付に行く。
受付には若い男の人がおりこちらを見ている。
腰に携えているメイスに手をかけている、僕の事をモンスターだと思っているのだろうか?
「私はエルザスヘイム管理人の護衛を務めていた騎士カーンです。風の荒野で彼を助けました」
カーンさんが受け付けの人に話しかけるとまず騎士様だということに驚いた後、返事をした。
「助けたことはわかったが、なぜ魔学研究所へ?」
…?僕の事をしらないのだろうか。
ずっと窓もない部屋に閉じ込められていたし無理もないと思うけど、なんとなくこの異様な姿に心当たりはないのだろうか?
魔学研究所の実験のせいでこの姿になった被害者だと察したり…あ、知らないふりをしているのかもしれない。
「彼に話を聞いたところ魔学研究所の実験で今の姿にさせられたとの事だ。…これが事実ならば相応な制裁をさせていただくが…」
いままで見たことのないカーンさんの真剣な姿に少し恐怖を感じてしまった。