81.姫様が心配だ
「すっかり暗くなってしまったな…」
姫様と合流するべく夜道をひたすら歩いているが、足元すら見えにくいこの状況では道しるべを見逃しかねない。
「…」
道を間違えて全く違う方向に向かう…よりは日が昇るまで待っていたほうが良いだろう。
「だが…姫様が心配だ」
確かにカーンは俺と同じく騎士だが…やはり心配なのだ。
「…行くか」
魔術で道を照らせばモンスターが襲い掛かってくるだろう、だが自分の身などどうでも良い。
今は全てにおいて姫様を優先するべきなのだから。
「…」
魔術を行使すると足元が発光して道を明るく照らす。
そして十秒も経たないうちに周辺の木々の裏に何かの気配を感じ始めた。
「ここで殺しておけばエルザスヘイムの連中も多少は楽ができるだろうしな」
一つの行動で二つの利があるのならそれは素晴らしい事ではないか。
「…」
抜剣して盾を構えると、一際太く大きな木の裏から何かが顔をだした。
「…相変わらず胸糞の悪い容姿だな」
木の裏から顔を出したモンスターは耳と鼻と頭髪のない人間のような見た目をしている。
白く濁った目は大きく膨れ上がっており視力も弱い。
だからこそ夜中に明かりをともすとコイツらは群がってくる。
『ア…ア…ア』
…彼らモンスターは、我々人間のなれの果てだ。
強力な魔力に晒され続けると人間はモンスターになり、容姿と理性を失う。
そうなってしまえばもう治療法は何一つない。
殺される前に殺すしかない。
「…ッ!」
大木ごとモンスターを両断する。
もはや罪悪感はほとんどない、そんなものは騎士になったときに感じなくなったのだから。