79.僕は…
「ん…」
暖かい…
ぼんやりとした意識の中、少しずつ目が覚めてくる。
「ここ…は」
見た事の無い部屋の中だ…壁や床は木製で、机や椅子に僕が寝ているベット等の家具がある。
「牢屋…じゃないよね」
部屋の中を見回していると机の上に水の入った桶や布がある事に気がついた。
「これは…」
自分の体を見る。
傷だらけだったはずの身体は綺麗に手当てされており、巻かれた包帯にほんの少し優しさを感じさせられる。
「誰かが僕を助けてくれたのか…?」
だが…やっぱりこの身体は治ってはいないらしい。
深い闇の色をした肌。
僕の身体はすでに普通の人間とは違う、血も流れていなければ臓器もない…らしい事は覚えている。
そして…僕の身体は周りの光を吸収してしまう。
失った光を取り戻そうとするように。
「…」
確かなにかやらなくちゃいけない事があった気がする…。
何故か少し前の事がなにも思い出せない。
何故こうなったのか。
何をやらなければならなかったのか。
それは…絶対に忘れちゃいけない事なんだ。
「僕は…」
何を…
カチャ
「…っ」
ドアノブが開かれる。
「おや、目が覚めたのか」
頭をすっぽり覆い隠す兜に肩や膝の部分にアーマープレート?をつけた軽装の人物から男性の声が発せられた。
「えっと…僕を看病してくれたのはお兄さん?その、ありがとう」
「ああ、いや。お礼ならば私では無くこれから会う人に言ってくれ」
お兄さんは兜を脱ぎながら話す。
「これから会う人?その人にお礼を言えばいいんですか?」
「ああ、くれぐれも失礼のないようにね。それと、私はお兄さんでは無くお姉さんだ」
兜を完全に脱ぐとそこには長く綺麗な金髪に緑色の瞳の美人が居た。
「…え?お兄さんは…お姉さん?でも声…」
「…声の事は言ってくれるな、かなり気にしているんだ」
お姉さん?は恥ずかしそうにしながら話す。
「あ…ごめんなさい」
「まぁ……慣れてるからいいさ、とりあえずこれでも食べなよ」
目の前に美味しそうなアップルパイが出される。
正直お腹は余り空いてないけど…何故か嬉しくて、一口食べる。
「美味しい…」
「おいおい、そんなに急いで…あ、大丈夫?」
「カレン……」
僕は何故か知らないはずの人を思い出して、涙を溢していた。