73.鎧が熱い……
「やるな」
空中に薄い紫の髪がキラキラと舞う。
「!?…はッ…ハっ…」
俺は頭を叩き割ったつもりだったが寸前で躱されたようだ。
蜘蛛は大体40mほど後方に飛び退いている、まぁそれくらい全力で動かなければ本当に頭が割れていただろうが。
「フゥ…!貴方本当に人間?」
死にかけて冷静になったのか、まともに言葉を話し始めた。
「失礼な、私は人間だ。それに騎士ならばこの程度当たり前だ」
「ママンから聞いてはイタケドここマデとはネ…」
そうこうしているうちに俺の周りには多数の蜘蛛の民が集まり始めていた。
巣の上から此方を眺めるものや薄紫の蜘蛛を助けようとしている者がいる。
「そいつに味方するならばお前も敵とみなすぞ」
「友達を見殺しに出来るワケないでショ!?」
「そうか」
鎧に魔力を注ぎ高速で仲間思いの蜘蛛に接近する。
ただでさえ遅い重装騎士は囲まれると非常に不利になる、そういう時の対処策として一時的に自身の移動速度を早める魔術がこの重装鎧には組み込まれている。
射出系の魔術より遥かに速いが銃弾よりは少し遅い、だがそれだけあれば十分である。
「!」
仲間思いの蜘蛛は凄まじい反応速度で回避しようとするが既に遅い。
だがそのまま体当たりするわけにも行かない為、すれ違うようにして横を通り抜ける。
俺はすれ違い様に仲間思いの蜘蛛の頭を鷲掴みにする、掴んだ時におそらく首の骨は折れているだろう。
そしてそのままの勢いで仲間思いだった蜘蛛の顔面を落ち葉の無い地面に押し付ける。
そう、高速移動は出来るがブレーキは無いのだ、停止する為には何かにぶつかるか剣の鞘等でブレーキ替わりにするしか無い。
仲間思いだった蜘蛛の頭が擦り切れて小石程の大きさになって停止出来た頃には、地面に顔面を押しつけた地点から大体50mほど移動していた。
「クソ、鎧が熱い……」
そしてもう一つの欠点は鎧が非常に熱くなってしまう事であった。
俺は出来立てのレッドカーペットの上を歩いて蜘蛛達が集まっていた場所まで戻る。
「さて、他にやりたい奴はいるか?」
蜘蛛達は戦っても無いのに絶望した様な表情になっていった。
やる前から諦めるのは俺が嫌いな事だ、腹立たしいが…だからといって理不尽に殺したりはしない、俺は騎士だから。
それに血を流さずに戦が終わるならそれが一番良いに決まっているのだ。
「降参すル…無理だ、勝てナイ…」
集まっていた蜘蛛の民の一人がボソッと溢した言葉に反対する声は無かった。
「お前は」
薄紫色の髪をした蜘蛛の首を掴む、それにしても細い首だ…力加減を間違えたら折ってしまいそうだ。
「あ、アタシ…はっうぐぅ」
少しずつ首を絞める、さっさと降参してくれ、俺だって殺したくて殺しているわけでは無いのだ。
「……っ…こう…さんスるわっ…!」
手を離す、そうだそれで良い。
俺なら首が折れようが国のため戦うがな、此奴らの愛情とやらもたかが知れてる。
「良いだろう、では隷属契約を交わさなくてはな」
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