72.共存契約
蜘蛛の民を引きずりながら落ち葉の森を歩く。
「おい。誰かいるだろう、お前達の巣へ連れて行け」
森の中一人、姿の見えない者に大声で話しかける。
「…」
少し待っていると初見の蜘蛛の民が木の上から姿をあらわす。
茶色の髪色をした老人…老蜘蛛?のようだ、なかなかに顔が整っている。
「ま、待ってくれ。私達の巣で何をするつもりだ」
何をするつもり…?…そうかコイツを見て怯えているのか。
「大丈夫だ。手は出さない」
「……」
まだ疑っているようだ。
まぁそれも仕方ないか、ならば手っ取り早く済ませよう。
「連れて行かなければ、この森を焼き払う」
「わ!わかった!だからそれはやめてくれ、私達も生きているんだ…!」
老蜘蛛は此方をたまに振り返りながら俺の前を進む。
俺はその後ろに続いた。
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「いつ見ても何とも言えない気分になるな」
蜘蛛の巣に辿り着いた。
彼らの住処は非常に複雑な作りをしている、人の文化に触れたせいか所々に家のようなものがぶら下がっており何とも摩訶不思議な光景が広がっているのだ。
巣の構造を眺めていると見覚えのある蜘蛛が此方にやってくるのが見える。
「アらぁ!この前の人間サンじゃ…なイ…ノ」
薄い紫色のショートヘアの蜘蛛の表情はみるみるうちに曇っていく。
「へ…?なんデ…?ニタ…」
「此奴はニタっていう名前だったのか」
ニタをショートヘアの蜘蛛の前へ放り投げる。
「ねぇ…ニタ…お姉ちゃンだよ…」
しかも弟だったのか、それは可哀想だ。
「お前此奴…えー、ニタの家族なのか」
「そうよ…そんなことヨリ。ネェ。人間サン貴方がニタを殺したノ?」
ショートヘアの蜘蛛は俯いたまま話す。
「何がそんなことだ、俺は此奴に突然襲われた、これは重大な契約違反だ、今回は私だったから良かったものの一般人ならばまず死んでいる。次このような事があれば共存契約は破棄されたとみなすので注意するように」
これを伝える為にわざわざ巣までやって来た、これは当事者がやらなければならない事だ。
契約上、予告無しの契約破棄は出来ない為こういう行為が非常に重要なのだ。
それに、もはや大戦が終わった今此奴らにもう価値は余り無い。
どうせ捨てる契約ならばいつでも破棄できるように手配しておいて損は無い。
「うるさい…ウルサイ!!よくも…ニタを殺シてくれたァァワねぇぇェ!!!」
直後、いつの間に作ったのか巨大な鎌を手にした蜘蛛が襲い掛かってくる。
ガシャッ
巨大な鎌が鎧に直撃した瞬間、鈍い音を出して巨大な鎌の刃が潰れた。
「共存契約には、【無抵抗の人間に2回以上危害を加えた場合この契約を破棄しても良い】…という項目がある」
俺は目の前の間抜けな顔をした蜘蛛の顔面を直剣で叩き割った。