67.はい
コンコン…
「…」
出来の良い扉を静かにノックする。
「…」
返事は無い。
「入りますよ」
ドアノブを握りドアを開く。
ここのドアは"前"管理人が魔族に襲われた時に破壊された為、新品になっている。
カチャ…
軋む様な音もなくドアノブが回る音だけのなんとも味気のないドアだ。
「…」
部屋に入室するが誰の姿も見えない。
だが俺は迷わずに大きなデスクの前に立ち、下を覗き込む。
「…………」
デスクの下には小さく丸まった生物が静かに寝息を立てている。
「………ん。アドルフ」
「はい」
俺が来た気配を察したのか、濃いブラウンの髪に薄い青色の瞳の女性は目元のクマを擦りながら目を覚ます。
「……おはよ…」
「おそようございます」
もう昼前だ…俺は手を差し伸べる。
「さぁ、着替えますよ。今日はこれから蜘蛛の民が来るんですから」
「あ…そだっけ。じゃあいっぱいお化粧させてね…?」
"現"管理人は俺の手を取らずに両手を広げる。
「はぁ…ハイハイ。ほら」
「ありがと」
正面から管理人を抱き上げる。
朝の管理人は体温が高く柔らかい、なかなかクセになる抱き心地だ。
「蜘蛛の民は行方不明になった弟を探すのを手伝ってほしいそうですよ」
「あぁ…うん。報告書読んだよ」
少し話しながらドレッサーの前まで歩く。
「よい…しょ、と。ほら脱いで下さい」
「ねぇ…アドルフ」
管理人を椅子に下ろすと、服を脱ぎながら話しかけてくる。
「なんですか」
「ごめんね…無理やり秘書にして」
見慣れた全裸になった管理人は一切恥ずかしがる様子もなく、ただ申し訳なさそうにする。
「…………まぁいいですよ、前より給料高いですし」
素直に管理人が心配だったからなんて言えるわけがないだろうに。
「はぁ…本当やさし…結婚しようぜぃ…」
「はいはい。早く着替えますよ」
まったく…無駄に愛想良くしないで欲しい、俺だって嫌いだったらわざわざ付いてこない。
冗談だとわかっているが。
「ねぇ」
「っ…」
…冗談だと言うのに、勘違いをしそうになる。
裸を見られても顔色一つ変えないクセになんでコイツは…こんな時だけ真っ赤になって恥ずかしがっているんだ。
「好き」