65.ある程度の知能
「あら…美味しいですわ」
姫様はティーカップを音も立てずにソーサーに置かれる。
一つ一つの動作は素晴らしく洗練されており、見ていて美しい。
薄灰色の流れるようなドレスが姫様のお淑やかさを引き立てている。
実は…毎日姫様は御召し物をお着替えになられるのでひっそりと毎日楽しみにしている。
「…」
姫様は大きな窓から時計塔を見ていらっしゃる。
ここの喫茶店のこの席は丁度時計塔が見えるようになっており、美しい景色と共にティータイムを楽しめる。
……
時計塔の方から大歓声が聞こえてくる、予定通りカーンは上手くやっているようだ。
「…」
「…何故ケロイ・ハルフートなのかお聞きしても宜しいでしょうか?」
姫様はこちらを見るとその可愛らしい口元を開かれる。
「臆病で、ある程度の知能を持っているからですわ」
「御回答ありがとうございます」
それ以降特に会話は無くゆったりとした時間が過ぎて行く。
ある程度朝のティータイムを満喫していると、時計塔の方が段々と静かになっていった。
なにやら姫様の機嫌が良い気がする、恐らくだが姫様の計画は上手くいったのだろう。
だが…ひとつ気がかりなことがある。
「サリン様」
「なにかしら」
姫様はにぃと微笑む。
いつもより柔らかい笑み?のような気がする…
「本当に私が同席しても宜しかったのでしょうか…」
可愛らしい絶世の美女の対面に座るフルプレートの重装騎士。
明らかにアンバランスな組み合わせだ。
店主も店のドアを屈んで潜り抜ける俺を見て動揺していた。
「…貴方以外に誰が私と同席できると言うの…?」
姫様はどこか悲しげな表情で時計塔の方を向いてしまう。
勘違いだと思うが知れないが一瞬、俺だけが姫様と同席できるのだ、と言っていらっしゃるように感じられた。
不敬だろうか…?
「私で良ければいつでも、いつまでもご一緒致します」
本心がポロっと溢れた、本心というか欲なのかも知れない。
出来ることならば王国に着いた後もたまには茶会にでも誘ってほしい…と思う。
「…そう。でしたらもう少し…休憩していきましょう」
姫様は静かにティーカップに口を付けると綺麗な音を立ててソーサーにカップを戻される。
つい先程から姫様の耳が朱を帯びていたが、今は熱でもあるのではないかと心配になるくらい紅くなっていた。