64.朝イチで
管理人を連れて時計塔に着いたが既に物凄い数の人間がいた。
いつもならこの時間帯は時計塔周辺に人が集まらないため少し新鮮に感じる。
子供から老人まで本当に多くの人間が集まっている。
だからといってエルザスヘイムのすべての人間が居る訳ではないと思うが。
「わぁぁお。すっごい人」
「ちゃんと発表台の上にいる人見えてますか?」
「いんや」
そんな話をしていると変わった道具を持った人が話し始めた。
[よく集まってくれた、エルザスヘイムの住民よ]
時計塔の中心からこれだけ離れていても声が聞こえると言うことは恐らく手に持っているのは魔術機だろう。
「あ。あのひとヘイセウ氏の騎士様じゃん」
肩車された管理人はボソッと呟く。
「騎士様ですか?ヘイセウ氏では無く?」
「そう」
それ以降黙って騎士様の話を聞く。
特に当たり障りのない話を続ける騎士様だったが、少し様子がおかしいことに気がついた。
…泣いているのか?
[ーそして皆に大切な話が…ある…]
「まさか…」
嫌な予感がする。
何か大きな変化の訪れが…
[ヘイセウ様は…殺された]
「ウッソ…まじかい」
「冗談を言っているようには見えませんね…」
動揺したのは俺たちだけでは無く時計塔に集まっていた住人ほぼ全員同じだった。
「麻薬はどうなるんだ…?」
もしここで突然麻薬の取引を昔通り違法にする、なんて言われたら不味い。
「全部朝イチで売ったよ、アドルフ」
管理人は俺の上でカタカタ震えながら真面目な口調で話す。
[ぅっ…魔族に…殺されてしまったんだッ!!]
息を呑む。
辺りからざわめきが消える。
[魔族はヘイセウ様を操っていたんだ…そして麻薬を蔓延させてエルザスヘイムを奪うつもりだった…]
…確かに麻薬のおかげで金の回りは凄まじかった。
だが…街の所々で麻薬に溺れる者や、完全に廃人になってしまった者も居た。
これは事実だ。
[このままではエルザスヘイムは魔族に本当に奪われてしまう…だから…今すぐにでも挽回しなければならない」
「麻薬なんて捨てて魔族に立ち向かうんだよ!!!」
一人の名も知れぬ男が叫ぶ。
「ヘイセウ様の事は残念だけどヨォ!寧ろ仇を取れるチャンスだぜィ!!」
また一人、魔族に対抗する強い意志を持った男が叫ぶ。
「クソ!これじゃ麻薬も売れねぇし!大損だクソ!魔族にツケ払ってもらわねェとなぁぁ!!!?」
そしてこの一言で意志の強いものも、麻薬の無価値化で借金まみれになるだろう者達も一斉に声をあげた。
[みんな……その通りだ!魔族に立ち向かうんだッ!!]
「「おおおおおオオオオオ!!!」」
辺りは激しい熱気に包まれる。
「アドルフ…もしかしてここまでサリン様の計算通りなんじゃ…」
「…」
[皆!聞いてほしい!魔族に対抗するために次のエルザスヘイムを管理する人間を決めたいと思う!」
「ゲッッッ」
「そういうこと言うからですよ」
辺りの住民達は何も異存はないのか真剣な眼差しで騎士様を見つめている。
実際エルザスヘイムの管理人はよく変わってきた歴史がある為、皆抵抗がないのかも知れない。
「ほら…名乗り出てくださいよ、管理人」
「え、えぇ〜…」
管理人が恐る恐る挙手しようとしたところ、騎士様が話し始めてしまう。
[実は…一人推薦したい人がいる]
「アッ」
管理人は何かを察した様子だ。
[商人ギルドの管理人をしているケロイ・ハルフート氏だ!]
「ヒェッ」
管理人は気絶しそうになっていた。