62.お連れ致しました
広い屋敷内のとある部屋の前に軽装の騎士を連れて行く。
やはりさすが騎士と言うべきか、もうふらついてはいない。
「こちらだ」
「…ぁあ」
とある部屋…昼頃に訪れた客間の前に着いた。
こんなに直ぐに来ることになるとは思いもしなかったが…
コンコンコン
静かにノックをする
「お連れ致しました」
「良くってよ」
ふと軽装の騎士を見るとフルフェイスの兜越しにも驚いているのが分かる。
「この声は…!?」
「ふ…驚くなよ?サリン様だよ」
「…え"っ!?」
軽装の騎士は情けない声を上げて小さく震えている。
その気持ちは非常に良く分かる…俺も初めて戦場でお会いした時は幻覚かと思ったからな…
あまり姫様を待たせるのも良く無いだろうし入室させて頂こう。
カチャ…
「失礼致します」
「失礼…いたします」
俺に続いて軽装の騎士も入室する。
その後、椅子に腰掛ける姫様の前に2人並んで跪く。
「具合は良くなりましたの?」
姫様は軽装の騎士に話しかけなさった。
「はい。もう大丈夫です」
「それは良かったですわ」
「姫様。無礼を承知で…質問させて頂きたいです」
「良くってよ」
軽装の騎士は少し震えている。
「ヘイセウ様を殺めたのは誰なのですか」
「…」
…実際に殺めたのはナレ…の筈だが、姫様がナレを仕向けなければヘイセウ氏が死ぬ事は無かっただろう。
「魔族ですわ」
直ぐ隣で歯軋りが聞こえた。
「教えて頂き…ありがとうございます」
「(…なるほど…魔族の仕業に見立ててヘイセウ氏を殺害することによって民衆の魔族に対する恐怖心を煽り、今のエルザスヘイムの状況を変えるおつもりなのか。)」
確かに麻薬の所為で、兵士すらまともに戦えそうな者は殆ど残っていなかった。
こんな状況で街が襲撃されれば確実に破滅を迎えるだろう。
だが……本当にこうするしか無かったのだろうか?
「…そういえば貴方のお名前を聞いていませんでしたわ」
「失礼致しました。カーン・バゼルフと申します、サリン・シャンカ・バルトルウス・センス様」
姫様はニッと微笑む。
「ではカーン、貴方に命じます。この街を守る為、わたくしに協力なさい」
「承知致しました」
カーンは立ちあがり騎士団式の敬礼をする。少し震えているが、美しい敬礼だ。
「カロン、貴方は引き続きわたくしの護衛を」
「承知致しました」
俺も負けじときっちりと騎士団式の敬礼をする。
どうやら俺はまだ姫様の隣にいる事が許された様だ、全身全霊を持って姫様をお守りしなければ。
「…では明日のプランを解説致しますわ」