59."コレ"は使えますわね
その声の主は他でもない私の同志であった。
その顔を見た瞬間に全身に怒りが迸る。
「同志…私を騙していたのか…!」
「…」
元同志は表情ひとつ変えずにこちらを見ている、この期に及んでしらばっくれるつもりか?怒りで気が狂いそうだ。
「貴様から受け取ったあの球を飲み込めば…私も奴の様な化け物になってしまうのだろう!?」
私は化け物を指差して激怒する。
何が願いが叶う、だ。
あんなものに望んでなるものなどこの世にはそんざいしないだろう。
そして…そのことばを聞いたうら切り者は少し悲しそうなカオをした。
「いいえ…」
そして裏切り者の顔は歪み始めるた、まるでばけものにへんしんするかのよウに。
「触れるだけでアウトですわ」
うらギリものはにやりとわらっていタ。
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…目の前で肉塊同士が争っている。
「思ったより我慢強かったですわね、見直しましたわ」
話を聞いた後、球を渡してから半日ほど経っている。
本来なら10〜20分所持しているだけで化け物になれる代物なのだけれど…。
「…ナレは覚悟があると言っていたし、期待をしていましたのに」
ナレの方は30分ほどで化け物になってしまった。
だが肉塊同士の戦いではナレが思ったより善戦している。
騎士カーンは死んでいないが不意打ちで気絶していた、ナレの戦闘力はそれなりにあるのかもしれない。
「"コレ"は使えますわね」
黒い球…獣玉をもう一つ作り出す。
手軽に戦力を増やす為に開発したが、想定通りの結果を出してくれた。
「(次はもっと自我を保てるように…いや、それはそれで面倒ですわね…)」
「ぎぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいい」
ぐじゅっぐじゅっ
甲高い鳴き声で深い思考の海から引き上げられる。
肉塊達の方を見てみるとヘイセウの四肢?はバラバラになっており既に息絶えていた。
「………あら、ヘイセウは死んでしまいましたのね」
ナレはヘイセウの身体をぐちゃぐちゃに食い荒らす。
撒き散らされた血肉により館は酷い有様になっていた。
「マナーが悪いですわね、そんなに空腹だったのかしら?」
ナレに近づいて声をかける。
「い、い、」
ナレは所々にある目玉から涙を滲ませながら必死に何かを伝えようとする。
「カロン」
「はい」
血液によって赤く染まった廊下の奥から軽装の騎士を背負ったカロンが現れる。
カロンは気絶している様子の騎士を破壊されていない椅子に腰掛けさせるとナレの方へ歩き始めた。
「…」
カロンは無言で直剣をナレに振り下ろす。
「いっいっ」
ナレが何度鳴き声をあげてもカロンは手を止めない。
「…」
何度も何度も何度も無抵抗のナレを斬りつける。
「 い 」
何度も。
「………………」
「カロン」
「…はい」
まだ斬ろうと腕振り上げたところでカロンを呼び止める。
「それ以上は刃が欠けますわ」
「そう…ですね」
カロンは直剣を鞘に収めた。