53.お客さんですよ
「ふあぁぁぁぁああ!たぅのしぃ!」
「オイ!抱きつかないでくださいよ。酒臭い!」
商業ギルドの管理人ケロイは今日も合法麻薬売買で稼いだ金で外食していた。
もちろんアドルフを無理やり連れて。
「あ゛は は !」
「コイツ…一回マジで捨てて行こうかな」
そんな事を言いつつケロイを抱きかかえて運ぶアドルフ。
………
しばらく歩くと人通りは無くなり、静かな道にアドルフの足音だけが響く。
「…ドルフ…こー…ちゃ…」
「は?コイツ寝た?捨てるか」
すぅすぅとケロイは寝息を立てているのをそっと起こさない様に石造りの階段を上って行く、街灯はあるもののケロイの所為で少し足元が見えにくい。
慎重に階段を上って行くと階段を上りきった場所に2人の人影があることに気がつく。
2人は黒いフード付きの外套をまとっており、顔は見えない。
片方はシルエットがゴツゴツしている為、鎧の様な物の上から外套を羽織っているのが分かる。
「えっと…何か御用でしょうか?」
階段を上りきり、いつでもにげれる様に軽く身構えて話しかける。
「そちらの女性に用がありますの」
上品な話し方をする女性の声がする、華奢な方だろう。
「管理人に御用ですか?…でしたら正規の予約を入れてから…」
「逃げても無駄な事はわかるな」
次は抑揚の無い男性の声だ、ゴツゴツしている方だとわかる。
「はぁ…分かりました。少々お待ち下さい」
アドルフは直感で逃げるべきでは無いと感じていた、だからこそ素直にケロイを起こす事にした。
「うぇ〜……家ついたん…?」
「…管理人。起きて下さい」
スパァンッ
アドルフはケロイに平手打ちをかます。
「いってええぇぇよぉぉ!?なに!?ナニ!?!?ごめッ…ごめんなさい!?」
「…ふっ」
身体をビクビクさせながら怯えるケロイを鼻で笑うアドルフ。
「遂に?遂に愛想尽かしたん…?」
「そんな事よりヤバイですよ」
絶望した様な顔をしているケロイを無視して状況を進める。
「お客様です」